「失格なのは息子じゃない、親だ!」
「千葉の高校を中退した次男が新しい高校で無事卒業してほしい」というわたしと妻の願いは、次男が北海道の奥星学園余市高校へ進学することでかなうかもしれないとの可能性を見いだした。
入学式の前日に次男と羽田空港から空路で北海道入りする。
余市の永野下宿へ到着すると、次男は先輩たちから手荒い歓迎を受け、閉じていた心が少しずつ開く。
わたしはオーナーの永野ひろみさんに「よろしくお願いします」と頭を下げると、「息子さん、もう馴染んでいるし、大丈夫ですよ」と明るく返してくれた。
次男には「ちゃんとやるんだぞ!」と声をかけタクシーで踵を返す。
小樽へ戻り、オーセントホテル小樽へチェックインする。
余市にも宿はあるが、わたしは小樽の夜がいいだろうと思って決めた。
小樽市内へ宿泊する保護者有志の懇親会会場は村松友視著『海猫屋の客』(朝日文庫) のモデル「海猫屋」だった。
わたしが次男のやんちゃぶりをひとこと語ると、この店のマスター増山誠氏から強烈なメッセージを送られた。
「あんたも奥星余市の父兄か? ここ2、3年ごぶさただが、昔は親がよくきてくれた。親に言いたいのは、子どもの謹慎で学校に呼びだされたとき電話で叱るな。文句があるならこっちへきて叱れ。怒ったあとは褒めてやれ。失格なのは息子じゃない、親だ。でも、これから親もやり直せばいい」
わたしはハンマーで後頭部を殴られたような感覚になり、かつ驚きのあまり絶句して、ことばがでなかった。
この場には、保護者OBもいて一様に明るく笑いが絶えない。
新入生の親はわたしのように表情が堅い人間もいれば明るく振る舞う人間もいてさまざまだ。
わたしはここ小樽の「海猫屋」で、これまでとは違った別世界へ放り込まれたような感じがした。
それがなにかわかるのは、奥星余市高校へたびたび顔をだすようになってからだった。
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