主治医の話をまともに聴けない!
12時半に会社を出て、千葉大病院へ13時50分に着く。
妻がレントゲン検査と検尿へ行っているときに克本医師が見える。
「残り2か月を伝えましたか?」
「いただいたメールの概要は伝えていますが、時期については語っていません。奇跡を信じていますから」
克本医師は少々不満げだった。
妻は皮膚科病棟の隣の口腔外科で診察を受けたあと、再び皮膚科に呼ばれる。
この間、長女と長男がやってきて、克本医師と顔合わせする。
克本医師は「きょうは忙しい」と言いながら同年代らしいわたしに軽い話を持ちだす。
「歌手は誰が好きだったの? ピンクレディー、キャンディーズ、それとも山口百恵?」
「わたしは秋田美人の桜田淳子さんや健康的な西田ひかるさんでした」
その後、克本医師は電車好きとわかるが、重たい話に戻る。
「口の中のできものを切除するべきだ。大きくなってからでは歯や舌に当たって出血するし、取りづらくなる。(免疫細胞療法の資料を手に)瀬田クリニックは詐欺ではないようです。紹介状を書きました。CT画像はパソコンの画面を見ながら進めていくのでデータが重すぎて面倒だが、資料は何とかそろえた」
「短時間にありがとうございます」
克本医師が部屋からでていったあと、戻ってきた妻と話す。
「口の中のできものを早く切除するように言われていたよ」
「口腔外科の若い先生は『取らないほうがいいだろう』、年配の先生は『いまなら簡単に取れる』と意見が分かれていたみたい」
その後、再び克本医師が見え、妻とともに半ば強引に地域連携医療部へ連れていかれる。
女性ばかりが5、6人ほどいて、克本医師はニコニコで「みんながこっちを注目しているな~!」と言って終始ご機嫌だ。
地域連携医療部の話しをへて、克本医師が緩和ケアいわゆる終末期医療の話をすり。
「これから体力を奪われ、ベッドで寝たきりの生活になることが予想される。末期ガンと診断されれば今後ベットを月2,000円で借りられる。大学病院だと安心だという考えは捨てて、できるだけ最期は自宅で迎えたほうがいい。緩和として麻薬を投与してくれる病医院は、大網周辺だと千葉市緑区の坂の上クリニックと東金市内の岡崎医院のみ。田舎だと専門の医師不足の問題がある」
あす免疫細胞療法に取り組もうというのに終末期医療の話をされてもピンとこない。
帰宅後、克本医師とメールをやりとりする。
「妻を免疫細胞療法に送り出していただきありがとうございます。後日、抗ガン剤治療も希望しています」
「きょうは長い時間ご苦労さまでした。先日のCT検査では脳に転移を疑わせる影はありませんでした」
田川医師ともメール交換を行なった。
「きょう主治医の克本先生から紹介状とCT画像をいただきました。瀬田クリニック新横浜にも『患者へ充分説明してほしい』と電話してくださいました。また報告します」
「気をつけて行ってきてください。LAK療法(免疫細胞療法)が奥さんに効果があることを願っています。ぼくも後輩の中村春博先生、鎌田高徳先生をはじめとする千葉大の先生も、LAK療法に期待しています。何かありましたら連絡ください」
死期が最短2か月の宣告通りに進められていて機械的だ。
動けるうちに病院へ挨拶に行くにはそろそろアクションを起こせという話もわかる。
しかし、われわれはあすの免疫細胞療法に賭けているのだ。
克本医師は、歌手や鉄道の話を持ちだし柔らかいのかと思いきや、妻が亡くなると確定視した進行と説明はかたくなだ。
そんな主治医に違和感を覚えるが、わたし妻のことを思うとご機嫌をとるしかできなくて歯がゆかった。