泣かない三男
千葉大病院で妻を乗せ、海浜病院を訪ねる。看護婦さんから「(三男は)きのう初めてお風呂に入ったんですよ」と言われる。妻は三男を抱っこして、ミルクを飲ませる。
千葉大病院へ戻って妻に尋ねる。
「明日また連れて行ってやろうか?」
「行く行く!」
自宅で次男を寝かせると、当初9月号掲載予定だったインタビュー記事に着手する。
翌朝、次男の「パパ起きて」の声で目をさます。
遅い朝食をとり千葉大病院へ行く。約束の時間に30分ほど遅れたため、すでに外出着に着替えて待つ妻は「待ったよ~」と少しむくれてみせる。
海浜病院に着くと、売店で次男だましのグミとジュースを購入。
三男はいつも寝ているか笑っているかで、妻が「泣いている顔を一度も見たことない」と言う。わたしも確かにそうだと思う。
その日は、佐久間瞬医師と妻が初めて対面。佐久間医師が三男のこれまでの経過を説明後、わたしと会話になる。
「お子さんの成長はとても順調です。そろそろ入院1か月になるので退院したほうがいいと思います。ベッド数の関係で9月6日までに出てもらうことになるかもしれません」
「66歳の母親ひとりでは荷が重すぎます。わたしもせっかく会社へ復職するのにまた自宅で子どもの面倒をみなければなりません」
「普通分娩としてもそろそろ出産時期です。この病院でも、もちろん看護婦が1日何回か抱っこするでしょうが、それだとあかちゃんは相当欲求不満がたまり将来に影響が出るかもしれません。非常に大切な時期です。この病院にもキャパがあり、退院がないと新しいいのちが入院してこられないのです」
「以前、千葉大学病院の小児科で預かっていただけるかもしれないと聞きました」
「小児科は異常があれば預かりますが、順調ならば無理だと思います。産婦人科も1か月以内であれば預かれても、それ以降は厳しいでしょう」
「……」
「9月6日が8日になる程度であれば構いませんので、連絡してください」
「わかりました」
「将来に悪影響を及ぼす」「新しいいのちが入院してこられない」という佐久間医師のことばは、とても説得力があった。
風月堂でケーキを口にしながら妻が近況を話す。
「わたし、朝方寝言をいったらしいの。きのう怖いテレビを見て、『鈴木先生、北さん』と」
「おいおい、おれじゃないのか? 正義の味方は」
「うん。きのうはね(笑い)」
次男はとにかくじっとしていない。わたしは次男にいつも注意しているような気がする。その次男も母親を前に甘えるときと、離れて若干自立する両方がかいまみられる。
自宅へ戻ると実家から宅急便が届いた。電話すると「親戚から送ってもらったとうもろこしだ。早く食べよ」とのこと。皮とひげを取って、茹でて食べる。
再度電話すると、長女・長男が受話器を握る。
「キャンプは面白かったか?」
「うん、楽しかったよ」
母に「あすはよろしく」と言って電話を切る。