189.「息子がパスポートを忘れている!」

  1. 朝飯前の朝飯

「息子がパスポートを忘れている!」

 6時ジャストに目覚めると、窓の外はすでに明るい。

 リトルリーグ世界選手権大会の応援にきて1週間で帰る就職1年目の長女、大学2年生の長男、高校1年生の次男の見送りをしてやろうと思っていたが、携帯電話のアラームが鳴らなくて起きられなかった。

 切り替え後のドコモでなく、日本時間で現在19時をさすauで設定していたからだ。

 7時の食事までにシャワーを浴びて、観戦用のユニフォームに着替えていたら、部屋の内線が鳴る。

 徳川監督夫人からで「息子がパスポートを忘れている。至急、息子の部屋を探すように」との連絡だ。

 息子たちの部屋にはいると、タバコの吸い殻があって、気分が鬱になり、パスポートが目に入らない。

 監督夫人に「見つかりません」と報告すると、「もう一度、探そう」と言ってくれたので部屋を案内する。


 まずわたしがタバコの始末をしていると、監督夫人が「ここにあるじゃない?」と言う。

 たしかに長男のパスポートだ。

 みんなが「ミスタービーンに似ている」と言うホテルのフロント氏に飛行機、バス、タクシーのどれがまにあうかを確認してもらうとともに、一行のバスへ電話して、「全員をまきぞえにするわけにはいきません」と言ってバスを走らせてもらう。

 恐縮するわたしに監督夫人が口を開く。

「次男じゃなかったね? おねえちゃんが『なにやってるの? みんなに迷惑かけたんで謝りなさい』とか厳しく言ったら、長男が反抗するかもしれない。けれど、みんなを足止めしたんだから反省してもらわないとね。十年したら笑い話になると思うけど」

「そう言っていただけると、なんとか胸をなでおろせます(汗)」

 飛行機の便はなく、バスだとえらい時間がかかり、結局タクシーがいいだろうという話になる。

 タクシーを待つあいだ、監督夫人が最近ネタを披露してくれた。

「井村キャプテンなどが負けて落ち込んで涙を流しているときに、バスの中から女の子に手を振っていたやつがいた。バスの窓が開いていたら、あたまを殴ってやろうと思ったくらいあたまにきた。きのうの朝も、朝食前に大半が部屋のベッドでごろごろしていたから、監督やコーチが『まだ試合できるかどうかの大事な一戦を前にたるんでいる!』と言って、厳しく叱ったのよ。運があるといいながら、節目節目で手綱さばきをしている」

 タクシーが9時45分に到着すると、監督夫人から「万が一のために600ドル貸すから、ここにサインして」と言われ、焦っている最中で中身を確認しないで2か所にサインする。

 ケタが違っていたら大変なことだと肝を冷やす。

 タクシーでハイウェイを走行中、数か所の道路工事の影響で渋滞に巻き込まれる。

 日高父から「機内へ乗り込むところです」という電話をもらう。

 JTBの倉谷氏からも「いまどこですか? 息子さんとふたりで待っています」との連絡がある。

 サービスエリアへ立ち寄りトイレを済ますが、ここはスナックとドリンクしか置いていない。

 再びタクシーに乗り込む。

 タクシーの運転手はインターネットの「MAPQUEST(地図情報システム)」をもとに車を走らせている。

 それにしても車内はごみやコインが散乱していて汚い。

 これもふくめてアメリカなんだと思う。

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