155.「もうおまえたちに言うことは何もない」

  1. 朝飯前の朝飯

「もうおまえたちに言うことは何もない」

 江戸川区球場で全日本リトルリーグ野球選手権大会が10時半プレーボール。

 千葉リトルリーグの先攻で2番の山田選手がライトオーバーの3塁打、3番の若田選手がリトルリーグ用フェンスをはるかに超え、いちばん深いバックスクリーンへ打ち込み先制2ラン。

 江戸川区球場は両翼90メートル・中央118メートルで、阪神甲子園球場の両翼95メートル・中央118メートルとほぼ同規模だ。

 中学1年生の若田の高校生超級の一発は、優勝候補の常勝ムードを一気にしぼませるのに充分効果的だった。

 背番号3のエースは明らかに落胆の表情になる。

 その後もレフト前ヒットの三村選手がバッテリーミスで生還。

 5回表にも3点を加点し、武蔵府中リトルリーグを突き放す。

 6回裏に2点を返されたが、試合の流れを変えるまでにはいたらず6対2でゲームセット。

 試合前に徳川洋文監督が「おれはもうおまえたちに言うことは何もない。すべて言い尽くした。あとは自分たちが状況に応じて考えて野球をしたらいい」と言われたことばが結実した。

 試合前のシートノックへのぎこちない対応も、リラックスするうえでのパフォーマンスと考えれば合点がいく。

 選手たちは意気揚々と三塁側スタンドへ戻り、三男がてれくさそうにしていると、長男が「てれんじゃねーよ」と声をかける。

 三男はスタンドでにぎりめしとウィダーを口に入れる。

 第3試合(2回戦)は13時30分開始の予定だが、第2試合の進行が遅れている。

 中華料理店で食事をして戻ってきたのにまだ3回裏で佐世保中央リトルリーグの攻撃だ。

 現状は松崎リトルリーグ(四国連盟)が1対0でリードしているが、予断を許さない状況だ。

 6回裏に松崎のエースが球数制限で降板すると、リリーフ投手が打たれ2対1で逆転を許す。

 2回戦の対戦相手は佐世保中央リトルリーグに決まり、予定より2時間遅れの15時半プレーボール。

 この試合は後攻で、1回表に千葉リトルリーグが死球の重田を置いて2番の山田がレフトオーバーのホームランで2点先取。

 3回は重田の右中間フェンス越えのホームラン、さらにレフトへラッキーな二塁打の山田をおいて若田が右中間へ2ランホームラン。

 なおも内野安打2本と内野ゴロのあいだに1点追加し6点目を挙げる。

 それまで2打数0安打だった三男も5回表の攻撃でエンタイトル2塁打を放ち、重田父や1学年上の鶴岡父、1学年下の亀田父等からハイタッチの洗礼を受ける。

 この試合も相手チームに最終回で5点を奪われる。

 井村投手の投球制限による降板でリリーフ陣のもたつきがあったとはいえ、もう少しスムーズに終われるとベストだ。

 わが家は乗り合いではないので一路自宅へ向かう。

 三男が「おなかがすいた」と言うので東金で食べ、家に戻って妻の祭壇へ「勝ったぞ! 1、2回戦突破したぞ! 来週、準決勝と決勝だ!」と報告し、子どもたちとワインやジュースで祝杯をあげた。

    父母には「来週、三男たちの野球チームがすごいことになるかもしれないから上京しない?」と電話したら「検討する」とのことだった。

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