122.「だれにもわからんこの気もち」

  1. 朝飯前の朝飯

「だれにもわからんこの気もち」

 妻の腫瘍の脳転移は深刻だ。

 視野が狭く平衡感覚を失うので、手洗いへ行くときに、ころんだり頭を打ったことがある。

   それ以降、病院で寝泊まりして、一緒に起床し手を引くなどのサポートをしている。


 その日は晴れて早朝4時半にすでに日の出していて明るい。

   自然光で、近々入院して脳転移の腫瘍を撃退してもらう千葉県循環器病センターのパンフレットや「ガンマナイフを受けるにあたって」の資料を読みこむ。


 7時半に滝田八重医師の回診があり、循環器病センターでのスケジュールの概要を教えてくれる。


 わたしはその場で疑問を投げかけた。

「循環器病センター入院時の救急車の利用や千葉大病院の部屋はどうなりますか? 循環器病センター退院時に千葉大病院の受け入れがどうなるかも教えてください」


「のちほど調べて回答します」

 8時、朝食用のおしぼりに続いて、朝食の膳が運ばれてくる。

 妻が食事中で、しばらくは看護師さんもこないだろうと思い、わたしはシャワーを浴びて、うっかり呼び出しボタンを押してしまった。

 女性の看護師さんがやってきたので、顔だけ出して詫びる。

「押し間違えました。忙しいのにご迷惑をかけすみません」

 その後、1階に降りてコンビニampmへ寄り、鶏肉弁当とおこげスープを購入。

 9階へ戻ると上廣啓祐医師ほかの回診が終了し、滝田医師が先ほどの質問に答えてくれる。


「循環器病センターへ救急車を出せるのは体調が悪く点滴を外せないような場合のみです。奥さんは重度ではないので民間の救急車か自家用車になります。民間の救急車だと距離的に15,000円程度です。民間の救急車は車椅子利用の場合に有効ですが、自分の足が使えるなら自家用車でかまいません。W入院は無理で千葉大病院は退院となります。千葉大病院へ再入院の場合、部屋はできるだけ変更しないで個室です。だだし、急患が個室を希望する場合、部屋を明け渡す可能性もあり、小荷物をナースセンターで預かります」


 10時すぎに妻が洗髪するあいだにメールを打ったり本を読む。

 30分ほどして妻がサザエさんヘアーでさっぱりした顔をして部屋へ戻ってくる。

 看護師の牛川巧くんと橋外緑さんが妻の腕に巻いていたビニールを外して、点滴の管を通してくれる。


 その際、坊主頭の牛川くんに尋ねてみた。

「坊主頭の理由は? 女の園でモテすぎるから?」

 これに橋外さんが「昔はロン毛だったようです」、牛川くんが「ロン毛のパーマです」と教えてくれた。


 11時に長女が義父を伴ってきたのでわたしは会社へ出勤。

「夕方に迎えにきます」と言ったが仕事が忙しく、千葉大病院着が20時半となる。


 義父・長女と、蘇我駅で三男を乗せイタリア料理店でパスタとピザを注文。

   そういえば妻はパスタが大好物だったなーと思いながらフォークとスプンで麺を口に運ぶ。

 食事後、再び千葉大へ。

 消灯時間で妻は横になっているが、三男が「おかあさん」と言って起こす。

   その声は、久々に母親にあえて感極まり、かつ病状を心配した様子だ。

 15分ほどいて、長女を残して病室をあとにする。

 帰宅すると母が待っていた。

 ひとこと「悪いけどみんな食べてきた」と伝えレンジのフライパンを見ると、チャーハンが大量に残っていて申し訳ないと思う。


 メールチェック後に、西の方角を向いて妻へ「おやすみ。あすも元気でな」と言って床につく。

 妻はその日に思ったことを、腫瘍が脳転移した頭で次のようにまとめている。

(※三男)しあい
やきゅうがんばれ
きょうはてんきだ
はやくあまさがすっきすっき(※頭がすっきりしたい)
だれにもわからんこの気もち
きらくでいいと思っているが
ぜんぜんぜんわからん

あすあめ
ガンマナイフ
げつようび
あさおわる

しあいがんばれ
いのっているからね がんばれ
力になれなくてごめんね!!
みんな(※三男に)やさしくしてやってほしい。

あたまの中って不しぎだよ!!
いらないものがじゃましてるだけで、かんがえられなくなる。
いのるしかない。いのるのみ。
きもちはいっぱいこめてるからね。

「だれにもわからんこの気もち」が、妻の病状を表しているように思った。

(つづく)※リブログ、リツイート歓迎

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