セカンドオピニオン
会社で上司の岩野清志専務(当時)に妻の病状を報告したところ次のように助言された。
「千葉大学付属病院は日本でも屈指のガン治療の権威だ。その病院でも今後の治療方針を巡ってふたつにわかれているのであれば、セカンドオピニオンに聞いてもいいのではないか? 千葉大学の先生もそのことは了解していただけるだろう」
部門長会議では、わたしと妻について説明してくれた。
「山ノ堀くんの奥さんの具合が悪いので、これから遅刻や早退、休みが増えるかもしれない」
わたしは前述の通り、14年間在籍したK誌編集室の現場責任者を降りていたので、ある程度自由が利いた。
セカンドオピニオンだが、わたしは妻が「最も頼りになる」と言っていた千葉大病院の元主治医、田川一真医師のことを思いだす。
看護婦さんから「神奈川で開業されていますよ」と聞いていたのでネットで検索すると、神奈川県藤沢市内でクリニックを開業されているようだ。
少し緊張しながら電話をかけると、受付の女性が田川医師に代わってくれた。
「ご無沙汰しています。12年前に千葉大病院でお世話になりました山ノ堀の夫です」
「よく覚えています。おくさんはあの痩身でよくがんばって治療に取り組まれましたよね。あのとき産まれた息子さんはいくつになりましたか?」
「ありがとうございます。小学6年生、12歳です。先生、セカンドオピニオンをつとめていただけないでしょうか?」
診療中なのでいったん電話を切る。
13時30分に田川医師から電話があり、この間、千葉大病院で言われたことをかいつまんで説明すると次のように助言された。
「ダガルバジンとインターフェロンの併用(ダブフェロン)にしてはどうでしょう? 自分が担当した患者さんでメラノーマ(悪性黒色腫)の再発を食い止めた事例が1件あります。それとピシバニール(抗悪性腫瘍剤、リンパ管腫治療剤)が免疫を高めるのに効果的です。12年前に実施したCDV療法(ランダ点滴静注、ダカルバジン静注、フィルデシン静注)は白血球が下がるので投入しないほうがいい。したがって、ダブフェロン療法を1、2クール実施し、CT検査をして反応を見る。インフルエンザや肺炎、風邪に注意してください。免疫力を高めるためには規則正しい生活、野菜などを充分摂取して、楽しいことを創造し、つらいことを考えないようにすることです。わたしにできることがあれば協力させていただきます」
「近々お会いしたいのですが」
「火・水曜日の夕方、土曜日の午後なら大丈夫です。メールアドレスと携帯番号をお伝えします」
田川医師には以前無理難題を言っても笑顔で応えてくれた記憶がよみがえり、妻が快復するような気持ちになる。
この話を早速、妻に伝えたい。
田川医師に言われた「免疫力を高める野菜」を摂取するために東金市福俵のイタリアン、ドンピエトラで外食することにした。
妻はサラダとパスタ、わたしと長女はコースを注文。
食事が運ばれてくるまでに田川医師とのやりとりを伝えると、妻も明るい表情に変わる。
デザートのケーキは2人前のはずが、店員が「どうぞ」と言って3人分だしてくれた。
長男・次男・三男へは夜に「おかあさんを心配させたり、困らせないように」と注意する。
この日から信頼するセカンドオピニオン、田川医師とメール交換を始めた。
現在の主治医、克本晋一医師がセカンドオピニオンを受け入れてくれるかどうかが気になる……。