25.悪性黒色腫の切開手術

  1. 朝飯前の朝飯

悪性黒色腫の切除手術

 きょう8月29日は、妻の、お腹に続いて背中の手術だ。

 わたしは朝ごはん後、7時45分に家を出て、千葉大病院の皮膚科へ8時50分着。千葉東金道路に乗るまでの渋滞が予想外で、そのため病院でも駐車場で時間を要する。

 駐車場は2か所ある。アスファルトの第1駐車場は2時間で200円ずつカウント、土の第2駐車場は17時まで200円のみ。

 わたしは警備のおじさんに「妻の手術が16時までなので第2へ停めたい」と頼むが「順番だからどちらかわからない」とのこと。

 第1と第2の中間で警備のおねえさんへ同様に話すと「第2でいいですよ」とあっさりだ。それをおじさんにも伝えてくれたので、第2へ停車完了。おねえさんありがとう。

 病室へ9時15分着。看護婦さんに手術時間を訊くと「11時か11時半から」とのこと。

 妻が話しかけてくる。

「お腹が空いた。きのうの夕方から何も食べていないのよ」

「これから良くなるんだから辛抱、辛抱」

「前のように朝一番の手術がいいね。こんなに待ち時間が長いと疲れるわ」

 まだ具体的にどこが痛いわけではないので、気が滅入るらしい。

 11時に看護婦さんが「トイレに行きましょう」と言ったので、妻はそれに従う。部屋には手術用のベッドが持ち込まれ、妻はそれに寝て移動。

「何か緊張するね」

「(わたしは妻の手をとり)がんばれよ! おれがついているからな!」

「がんばる!」

 看護婦さんが「行きましょう!」と言ってベッドを押す。わたしも手を添え、一緒に2階の手術室へ向かう。

「旦那さんはこの辺で」と言われ妻が手術室へ入室。わたしが再度「ファイト! ファイト!」と叫ぶと、妻はこちらへ向かって見えなくなるまで手を振る。

 わたしは妻が手術室へ消えても、当分のあいだ廊下で腕組みをしたり「無事でありますように、手術が成功しますように」と言って合掌する。

 田川一真医師が2階へ降りてきて、手術室に駆け込む。

「よろしくお願いします(と頭を下げる)」

「(いつものように笑顔で)がんばります」

 11時半となり、わたしは3階のレストランでピラフを注文、ここでも「妻の体がすっかり治りますように」と祈って食べる。

 看護婦さんからは「9階の病室で待っていてください」と言われたので、戻ってパソコンで取材原稿に取り組む。

 16時に看護婦の箭内慶子さんが手術後の様子を伝えてくれる。

「終わりました。あと2、30分で麻酔が切れるので、戻ってくると思います」

 わたしはひと呼吸して「どうか妻が大丈夫で、痛みもわずかでありますように」と心の中でつぶやく。

 16時20分、わたしは9階の手術専用エレベーターの前に座る。妻を迎えるためだ。

 2、3分待つと時計で計ったように、手術ベッドの妻がエレベーターから出てくる。

 口がへの字に曲がり、頬がひきつっている。明らかに苦しそうだ。901号室へ入ったあと、若い医師や看護婦4、5人が寝たきりの妻を病室のベッドへ移す相談をしている。

 医師が頭と首を抱え、看護婦ふたりが足を持ち、まるで丸太を放り投げるような格好で妻がベッドを移動。その瞬間、酸素マスクをした妻は「痛っ!」という声を上げ、表情をゆがめる。

 医師が「痛かった?」と尋ねると「うん」と答えて、涙を溜める。最初の麻酔注射を打って、すでに5時間経過しているので、効果が薄れているのだろう。それから何度も「痛い! 痛い!」と繰り返す。

 田川医師が「痛いね、痛いね。よく頑張ったね」と病室へやってくる。「手術は成功したからね」のことばに妻は「うん」と相槌を打つ。

「ご主人も声をかけてあげてください」と言われたので「これからよくなるだけだ。がんば!」と勇気づける。

 手術後の処置中に、わたしは看護婦さんに頼まれてT字帯を買いに3階の売店へ行く。

 その後、田川医師から「きょうの手術の結果をお知らせしましょう」と言われたので、皮膚科治療室へ移動。

「左右リンパ節が10個ずつほど腫れている形跡がありました。その中でもそれぞれ2、3個の大きな腫れが確認されました。ただし、肉眼で見る限り取り切ったと思いますので、いちおう安心してください。検査の結果は約1週間ほどです」

「では、これまでの経過は順調ということですね。手術は成功だと……」

「検査結果が出ないと何とも言えませんが、いちおう成功です」

 この言葉の使い分けが微妙ながら、わたしは天にも昇る思いだ。

 病室へ戻ると、妻に「成功だからな。もう痛いことはしなくていい。1週間の辛抱だからね」と伝える。

 そのとき看護婦さんから質問される。

「きょう泊まられますか?」

「泊まっていいのですか? だったら泊まります」

「簡易ベッドを借りる手続きをしてきてください」

 わたしは地下1階で受付のおばさんに頼む。

「2泊できませんか?」

「看護婦さんがよければ大丈夫ですよ」

「1週間寝たきりの状態が続くので、できるだけ泊まってくれということだと思います」

 部屋へ戻り、妻に話しかける。

「何かしてやろうか?」

「涙を拭いて」

 わたしは洗濯して日のたっているハンカチーフを尻ポケットから取り出して、重ねた折り目のところで拭いてやる。妻は「ありがとう」とだけ言って眠りにつく。

 ひと安心すると、田川医師から患部の腫瘍を見せてもらう。

「幸いなことに、肉眼で見る限り筋膜は破っていません」

 患部が24センチもあり、それから3センチ離したため、直径30センチを切除したことになる。

 わたしはメモ中心に書き起こしていた原稿のテープを改めて聴き直すと、メモしきれていない、今城弘明先生の素晴らしい発言があることに気づき加筆する。

 カップ麺とパンを買い込み、9階の合室(患者が給食をとる場所)で早い夕食をとる。

 20時に、わたしと妻の実家へ電話をかけ、妻の手術のいちおうの成功と、1週間ほど寝たきりになるので、わたしが何泊かすることを伝える。

 21時の消灯後、自らベッドメイキングして、ニュース番組をイヤホンで視聴する。どうにか1日が終わった。

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