41.取材前泊の是非

  1. 朝飯前の朝飯

取材前泊の是非

 会社で朝から校正だ。ドイツ・イギリスへ海外出張している赤山雅夫主任(当時)の原稿もしっかり見てやらなければいけない。

 仕事は21時終了し、豊岡幸弘主任(当時)を誘って市ヶ谷駅上レストランへ。

 豊岡主任は、父親が上場企業の監査役(当時)ということもあり北海道の釧路出張のときも日帰りするような、旅費・宿泊費についてとてもシビアな人間なのでひとこと助言した。

「赤山くんがいないなかとてもがんばってくれていて感謝している。きょうは出張のさいの前泊の是非について話をしよう。以前、おれも営業のころはいっさい観光しないでトンボ帰りだった。でも、いまはお互いにライター兼編集マンとして文字でアウトプットする仕事だ。取材先から土地のことを詳しいなと思ってもらったり、読者を文章で感動させようとすれば、前泊してその土地を歩いて、文化や歴史、産業の特性などについても見聞を広めたり、さまざまな情報をインプットする必要があると思う。そのほうが文章にも厚みがでるから」

「営業所時代にできるだけ日帰りするようにとたたき込まれたのが習慣になっています」

「いまおれなんか、前泊したときはレストランか居酒屋で軽く飲食したあと、あえて客が入っていなさそうな場末のスナックへ入って歌もうたわないで店主にその街の特徴をインタビューしてから、翌日の本番に臨んでいる。もちろん自腹だけど。なんで場末かというと、ほかに客がいたら店主に独占インタビューができないからだよ。わずかだけど、地方の活性化にも貢献しようと思って」

「スナックはあまり好きじゃないんです」

「だったら、書店に入ったりしてその土地について下調べをするのでもいい。本がいるなら経費で買ったっていい。社長も認めてくれるだろう。それと『取材先にはたとえ少額でも、菓子折りを持参しよう』と言ったのは、昼食や夕食を馳走になるかもしれないし、がんばってもインタビューでうまく引き出せなかったり、思ったように原稿が書けないときもある。そういうときに菓子折りで、こちらの負い目も減るだろう」

「菓子折りは持参しています。ただ、この辺にはあまり気の利いた菓子がありませんね」

 わたしの話に多少説得力があったのか、豊岡主任がうなずいてくれたので続けた。

「取材先から一緒に飲みに行こうと誘われたら、それに応じることも人間関係を構築するうえで大切なことだ。今度の座談会にある大物経営者が来てくれるのだけど、『一生のお願いです』と言ったら渋々でも引き受けてくれた。困ったときにお願いできる顧客を、社員全員が数人ずつでも抱えていれば、それが会社の力になるんじゃないか?」

 22時30分を回ったのでお開きにした。

 帰宅すると、妻が風邪をひいたのだろう、「ハナが出る」というので注意する。

「早く寝ないからだよ。薄着は禁物だ!」

「違う。風邪じゃない。自分こそ連日遅く帰って、早くでかけていたら風邪ひくわよ」

「おれはたとえひいても回復が早い。キミはリンパ節を切除していて抵抗力が弱いから問題なんだ!」

「以前、深夜、三男に授乳させようとして起きたときだな、妻の風邪の原因は」と思いため息がでる。

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