26.ひとりで食事ができる

  1. 朝飯前の朝飯

ひとりで食事ができる

 妻に「いびきをかいていたね」と言われる。痛みが緩和し、冷静になってきたのかもしれない。わたしが「調子はどう?」と尋ねると「きょうはだいぶいい」とのこと。


 10時過ぎに医師と看護婦が妻の脇の下を消毒してくれる。前日「旦那さんは室外へ出ててもらえませんか?」と言われたので、きょうは言われる前に出た。

 消毒後、妻はまだ痛そうにしているが、おそるおそる声をかけてみる。

「きょうはおばあさん(母)の誕生日なので、夕食を子どもたちと一緒にしてきていいか? 久々に三男の顔も見たいんだ」

「何とかなるから、大丈夫よ」

 わたしは早目の昼食をとり、妻の昼食のサポートを行い、海浜病院へ向かう。三男がすやすやと眠っている。それにしても泣かない子だ。

   ちゃんと声が出るのか心配になり看護婦さんに尋ねると「ミルクが欲しいときにちゃんと泣いて要求しますよ」と言われる。

 三男のネームカードに海浜病院の請求書がある。養育医療が適用されていて、8月2日~15日までのミルク代等は約15,000円だ。

 海浜病院で代金を支払うと、千葉銀行の領収スタンプが押されたシートが返ってくる。

 千葉市あすみが丘のシューベルトで母親の誕生日ケーキを注し、東金保健所へ養育医療の認定証をもらいに行く。担当の加藤岡房子さんがいたら、三男の養育をしてくれるところを尋ねようと思ったがあいにく不在だ。

 自宅へ戻ると、取引先デザイン会社の吉田陽生社長(当時)からお見舞金が届いていた。ありがたいが困ったなと思い、来週早々にも加藤佳寿夫専務(当時)にお返しする方向で相談しようと思う。

 次男が寝ていたので、長女・長男に「ケーキを取りに行くけど、一緒に行くか?」と尋ねると、「行く! 行く!」と言ったので、車に乗せる。

   長男が「どうしてもジャスコ(現・イオン)に行ってほしい。ミニ四駆の部品を買うから」と言うので、帰りに寄る。

 家で寝ていてむずがる次男を起こして、4人で入浴。その間、母は自分の誕生日の料理に精を出している。

 風呂から上がると、オムライスとサラダ、蟹が食卓に並んでいる。子どもたちは「わー、蟹だ」と歓声をあげるが、わたしは「オムライスを食べたらいくらでもあげるから」と言う。

 長男は喜んでまたたく間にたいらげ蟹身に向かったが、長女は一向に箸を持とうとしない。玉子が苦手なのだ。わたしが「早く食べろ」と言っても渋い顔。仕方ないので、わたしが玉子を食べてやる。

 テーブル上を片づけて、ケーキを出し、大きなローソク6本と小さなローソク6本つけると、寝ていた次男が「おばあちゃん、12歳なの?」と言う。母は「だったらいいのだけれど」と答える。

 長女は自分が一所懸命残さずに食べたのに、次男が一切口にしないでケーキにありつけるのが我慢ならないらしい。

 結局、次男は夕食の前におにぎりを食べたということでみんな納得して、ケーキを6分割する。

 長男が「残り1個はママに持っていってあげようよ」と言うが、それでなくてももう生クリームが溶けてぐちゃぐちゃになっている。

「ママには別なスイーツを買ってあげるから大丈夫だよ」と答えて、三子にわけてやる。

 わたしは21時ごろ家を出て、22時に病室へ着く。妻は就寝、といっても、わたしの物音で目を覚ましたらしく「あ、来たのね」と言う。

 2度目の術後、初めて夕食のサポートをしてやれなかったので尋ねてみる。

「どう、食べられた?」

「看護婦さんが初めてリクライニングベッドを60度に倒してくれたら、何とかひとりで食べられたの。魚の身をほぐすのだけは看護婦さんにしてもらったけど」

 背中の手術翌日に横向きのまま、ひとりで食べられた。大きな前進だ。

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