17.皮膚科への転科

  1. 朝飯前の朝飯

皮膚科への転科

 K誌9月号ゲラのチェックの締め切り日だ。

   午前中いっぱい未着手の校正を行い、会社へ電話し10カ所ほど修正を依頼。

 午後、妻の病室を訪ね、あす抜糸と聞き帰宅。

   その夜は、前日買い置きしていた蟹を湯がく。次男は一言もしゃべらず、黙々と蟹身を口に運び、身がなくなると「パパの頂戴」とリクエストしてくる。

   次男はきょうの食卓にも満足した。

 翌日、寺本昭男編集長(当時)が自宅へお見えになるので次男を肩車して私道入り口で待っていると、外車に乗って颯爽とやってこられた。

「素晴らしい自然環境だね」と言われ、ビールやサラダ油、そうめんなどの詰め合わせを頂戴する。

 寺本編集長はライカのカメラでわれわれ親子やわが家を撮影したあと「銚子を回って帰るよ」と言って、再びハンドルを握られた。わたしは橋まで見送る。

 次男は寺本編集長との会話の途中で近所の秋山聡くん宅へ遊びに行く。きょうは妻の抜糸なので早目に見舞ってやりたいと思い次男の名を呼ぶ。

   これに呼応するように、ご両親が次男に対して帰るように、また子息に「早くファミコンをやめなさい」と言ってくれる。しばらくして次男は文句を言いながらしぶしぶ出てくる。

 海浜病院の三男は、生後1週間たち、かなり落ち着いた様子だが、両目に目隠しをされている。看護婦さん曰く、「多少黄疸が出ているので光を当てています」とのこと。

 千葉大病院へ16時着。妻はちょうど抜糸の最中で、30分ほど病室の外で待つ。田川一真医師の「終わったよ」という声と同時にカーテンが開けられ、次男とともに入室。

 妻と同日に手術をして、一足先に抜糸した横澤英子さんの豪快な笑い声に、その場がなごんだ。


 きょうは産婦人科から皮膚科への転科のため、7時30分に自宅を出て8時10分に着くと駐車場へ楽々停められ、産婦人科の病棟へ足を運ぶと、看護婦さんから「早いですね」、妻から「早いじゃん」と言われる。

 9時50分に看護婦の元吉奈津子さんから「それじゃあ行きましょう」と言われたので、わたしが台車を押して9階の病棟へ移動。

 皮膚科906号室の4人は年輩の女性から小学4年生の女の子まで年齢層が広い。妻は自分と同年代がいないので、産婦人科とは違う雰囲気に少しため息をもらす。

   産婦人科では前向きな出産という目的を達成するために団結のような意識が芽ばえ、部屋を替わっても行き来するほどの親密ぶりで、皮膚科が悪いわけではない。

 午前中、皮膚科の板東真子医師が妻に抗がん剤の点滴を射しにくるが、なかなか血管に注射針が入らない。

   わたしと次男がその姿をじっと眺めていたら、「ご主人と子どもさんは部屋から出て行ってください」と言われる。次男も珍しくおとなしくしていたにもかかわらずだ。

 わたしは次男を3階の売店に連れていき、キャンディーと缶ジュースを買って戻ると、まだ注射が続いている。板東医師の「もうすぐ終わります」の声で、すぐに室外へ出る。

「終わりました」と言って立ち去ったので部屋に入ると、妻は痛々しく左右4か所に包帯を巻き、目に涙をいっぱい溜めている。

   わたしに「産婦人科ではいつも1回で射れてもらっていたのに・・・・・・。あの先生、下手。これからが怖いわ」と言って、抑えていた感情を一気に爆発させる。

 その日の夕方、わたしが病院を出たあと田川医師が回診に来て、妻は怒りをぶちまけたらしい。

   田川医師は「今度はぼくがやってあげるから安心して」と言いながら「自分は島根大学の出身で皮膚科の医者はほかにも中国地方や関西方面の大学出身者も多いのだよ」と世間話でなぐさめてくれたそうだ。

   その夜、妻はそんな電話をかけてきた。

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