妻が目を真っ赤に腫らしている!
妻が救急搬送の翌朝、会社へ出勤し、上司の岩野清志専務(当時)に病状を報告すると、「とにかく業務の引き継ぎをして、おくさんのそばにいるように」と言われる。
その当時、わたしは岩野専務に言ってK誌編集室室長を降ろしてもらい、パンフレット制作と講師派遣の仕事を部長職ながらひとりで担当していた。
まさか上司とはいえ「おれに編集以外の仕事を持ってくるなよ」と顔に書いてある岩野専務にお願いするわけにもいかず、ましてや総務部の亀宮建部長は仕事が嫌いで入社以来毎日のように腕組みで過ごしていて前回のたのみもマーケティング部の平岡寛和次長に丸投げしただけだった。
今回は直接、後輩の平岡次長に後事を託すことにした。
こういうとき社員30人の小規模の会社で、しかもひとりで仕事をしていると、休みがなかなかとりづらいのだ。
12時早退を申請して会社をでる。
千葉大病院の妻の病室(905号室)には13時すぎに着く。
妻は目を真っ赤に腫らしていて、それを長女、長男が見守っている。
緩和科の田内慶子医師が病室で話す内容は、前日の上廣啓祐医師等からの説明とほぼ重複している。
それに緩和科、終末期医療の話がくわしく語られた。
この日から家族がひとりずつ泊まることになり、簡易ベッドを借りる手配をした。
その夜は入社早々休職扱いにしてもらい、妻が同性のよしみでたのみやすいだろう長女に託した。
翌朝は長女が妻に代わって連絡したことで川野母(クニ母)が見舞いにきてくれたらしい。
わたしに「迷惑をかけている」と言った女傑だが、「もっと迷惑をかけろ」という意味なのかとふと思った。
妻と相性があうのは、川野母が義母に似た強気の性格だからかもしれない。
長女代筆の妻の日記には「5月14日11時20分、クニ母がくる!!! 酸素飽和度98%、血圧47/104、体温36.6℃、長男泊まり」とある。
わたしが夕方、会社から妻の病室を訪ねると、妻の生気がない魂の抜けたような顔があった。
それを見るのが忍びなく、たいして声もかけられないまま「あした次男の北海道へ行く。なにかあったら連絡ほしい」と言って病室をあとにした。
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