天国にいちばん近い島で夫婦喧嘩
映画「天国にいちばん近い島」で一大ブームとなったフランス領ニューカレドニア。
森村桂著『天国にいちばん近い島』(角川文庫)には「花が咲き乱れ果実がたわわに実る夢の島、神様にいつでも逢える島」とある。
この地上の楽園を、妻との結婚式を経てハネムーン先に選んだ。
だが主都ヌーメアのホテルへ1泊後、イルデパン島へ渡船の際、妻のスーツケースの鍵を持ち忘れ、結婚後初の夫婦喧嘩となった。
「えー、どうして鍵を持ってこなかったの?」
「そう言われても置いてきてしまったものはしょうがないだろう。なんとかなるさ」
「なんともならない! もう、わたし岡山へ帰る!」
「ちょっと待ってくれよ。その格好で帰るのか?」
「着替えがないのにここでどうやって5日間暮らすのよ?」
平成2年に「成田離婚」が流行語となったが、それ以前にも夫がうがいをしていた水を「ゴロゴロペー」でなく「ゴロゴロゴクン」と飲んだことで妻が耐えられないといって離婚したという話を聞いていて、気合いを入れて説得に当たった。
「落ち着いてよーく考えてくれ。旅行代金、ふたりで百万円も散財している。もしここで帰国したらそれがパーだ。どうしてもそうしたいならおれも付き合う。しかし、きみはきっと後悔するだろう。着るものならおれが買ってあげるし、売っていなければ洗濯する。おれの服を着たっていいじゃないか? 青い空、エメラルドグリーンの海、色とりどりの花、すべてがふたりを歓迎してくれている。それらを丸ごと楽しもうよ」
「・・・・・・」
「以前、『おかあさんのあたりがきつい』って言ってたよな。だから親元を離れてみたくて、ぼくと結婚したのもあるんだろ? 岡山へ帰っても、もう銀行には復職できないし、お義母さんと毎日角突き合わせて暮らすのも嫌じゃないか? だったらこの地上の楽園と、帰国後の東京ライフをエンジョイしよう!」
「わかった」
それから妻は数日間、ノースリーブ2枚へ交互に袖を通すが、2日後、定期便が鍵を届けてくれたので、ふたりで「わーい!」と歓声を上げた。
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