299.次男がフィリピンで銃口を突きつけられる

  1. 朝飯前の朝飯

次男がフィリピンで銃口を突きつけられる

中学1年からずっと面倒を見てきた三男がようやく独り立ちした。

やんちゃをしていた次男は鳶の手配師の会社をつくろうかと言っていたが、鳶職の先輩が目の前でビルから墜落して全身打撲、骨折、内臓破裂で寝たきりになると、八百屋のドライバーと黒服の二足のわらじを履いた。

その後、ほぼ全財産を預け1千万円超になっていた仮想通貨が大量の消失事件に遭遇し、しかも当分引き出せないという悪夢のような出来事に見舞われた。

しかも次男は三男の語学留学に触発されてセブ島へ行く直前で引き出そうとした矢先だった。

「おとうさん、仮想通貨で失敗した」

「分散投資をしていなかったのか?」

「この前、預金の全額を仮想通貨に切り替えたばかりなんだ。もうフィリピン行きは取りやめるよ」 「大学進学もあきらめ、語学留学もやめたんじゃこれから新たな夢も描けないだろう? 授業料と渡航費を貸してやるよ」

「ありがとう」

次男はもともと予備校で1年間ばっちり英語の勉強をしてきたのでカナダへ行く前の三男よりは英語力が上だった。

さらにフィリピン人のおおらかで明るい気質を気に入り「人類みな兄弟」になって気を許したのだろう。

もともと脇の甘さもあった。

友だちになったばかりの男に車のなかで銃口を突きつけられATMで20万円相当を引きださされたらしい。

いのちは無事だった。

LINE電話で「日本に帰るお金がいる」と言って連絡してきたがこんどばかりはということで断ると長女に借りたらしい。

帰国後まじめに働いて借金を返したようだ。

長男は子どもが幼稚園へ通うようになり、園の行事に参加したいということで、ガソリンスタンドで店長昇格の話を固辞して東京の商社へ転職した。

四子のなかでは最近最も成長率が高いように思う。

長女はあいかわらず元気で仕事に邁進している。

わたしは四人のなかでは長女の子どもがどんな顔か最も見てみたいので早く結婚してほしいと密かに願っている。

妻は先に逝ったが、これで親のつとめもどうにかこうにか果たしたのではないだろうか……。

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