「英会話が得意です! 英語圏で仕事がしたいです!」
三男がカナダの語学学校から帰国した。
「おかえり。TOEICがんばったな!」
「ただいま。初日の授業で血を吐いたんだ!」
「えっ!」
「隣の人から『どうしたんだ?』、先生から『トイレに行ってきなさい』と言われて行った。それから1か月ほど学校と下宿先で悶々としていた」
「やんでいたんだな?」
「でも、おとうさんが語学学校の転校を許してくれたのが転機になった」
「同い年ぐらいの友だちができたからだな。英語の勉強ってなにが大切か?」
「ぼくは発音だと思う。竹村先生のところへ行かせてくれたのもよかった」
野球以外まったくやる気のなかった三男は大学4年生になると、3年と4年の科目を受講し、就職活動に取り組み、東京株式第一部の企業2社から内定をもらえた。
しかも語学留学前は英語を避けていたのにTOEICで自信をつけると、「英会話が得意です! 英語圏で仕事がしたいです!」になった。
変われば変わるものだ。
三男が尋ねてきた。
「創業100年の商社と、創業20年のIT企業、どっちがいいと思う?」
「父は最近の企業にうといから自分で決めよ。それのほうが後悔がないだろう」
「わかった」
三男は外国赴任が中心の商社でなく、創業20年の国内IT企業を選んだ。
「浅草の商社のほうが給料がいいけど、森ビルのIT企業は場所がいい。本当は丸の内に自社ビルがある会社がいちばんなんだろうけどそれはムリ」
「そのIT企業はどうやって見つけたんだ?」
「高校の野球部の同級生が教えてくれた。企業へアプローチする方法は①自力、②大学のキャリアサポート(就職課)の斡旋、③就職コーディネーターからの紹介――の三つに大別されるんだ。断った浅草の商社は自分で探して、行くことにした会社は就職コーディネーターから勧められた」
「就職コーディネーターのビジネスモデルは?」
「学生を紹介して内定か入社に結び付けたら報酬を得る仕組みだよ」
「リクルートナビのようにインターネットで紹介する会社は楽だろうが、コーディネーターが一人ひとりリアルで対応する会社は大変だな」
「ぼくの担当も『シーズンによっては寝る時間がない』って言っていた」
10月1日の内定式で三男は自分よりも偏差値の高い大学の内定者多数のなか総代で決意表明を述べたらしい。
「おとうさん、ぼくを東京の中学校へ転校させてくれてありがとう。あのまま千葉にいたら環境に流されたかもしれない。東京へ来て視野が広がった。将来、恩返しするよ!」