「料理が朝飯前でつくれるようになったよ」
三男は池袋の塾へ通い偏差値を世界史60、国語55に上げたが、英語が40台に低迷したため志望大学から袖にされた。
偏差値55のB大学を蹴り、偏差値40~50台の大学のスポーツ系学科へ進学。
新妻の「東京の家は処分して秋谷にきて」ということばに従い、三男はいちはやく調布市内へ下宿させた。
わたしは引っ越し等が大変なので2か月ほど東京に滞留することにした。
そんなとき三男がわたしの引っ越しの手伝いで東京の家に帰ってきた。
「大学生活はどうだ?」
「楽しいよ。軟式野球の同好会へはいって、友だちがたくさんできたよ」
「それはよかったな」
「ぼく、いま居酒屋の厨房でバイトしているんだ」
「夜、遅かったら大学に支障がでるだろう?」
「大丈夫だよ。12時には終わるから」
「本末転倒になるなよ」
「うん。ぼくはいままで中1からずっとおとうさんに三度の飯をつくってもらってきた。最初はまずかったけど、ネットや料理本を見て研究したりして徐々においしくなったよね。だからぼくも自分で料理をつくれるようになろうと思ったんだ。つくるから食べてみて!」
「……(思わず泣けてきてことばが継げない)」
わたしは亡き妻を思い、「おまえに似てやさしい子になったよ」と心のなかで声をかけた。
小一時間して食卓に朝飯が並んだ。
ごはん、味噌汁、サラダ、あじの南蛮漬け……。
「どう?」
「おいしいよ」
「そう。料理が朝飯前でつくれるようになったよ」
「朝飯前の朝飯だな!」
居酒屋の味なので多少からいがおいしい。
「ごはんもおかずもうまいよ!」
野球以外、なにもしなかった三男が料理をするなんて夢にも思っていなかったので感激だ。