「どんなに貧乏をしても生きていけるたくましさがある」
くすんで精彩を欠いていた長男から暗い声で連絡がきた。
「子どもができたから結婚しようと思う」
「相手はだれだ?」
「中学時代の同級生だよ」
「子どもと一緒に生活していく自信はあるのか?」
「わからない」
「わからないんじゃきびしいだろう」
「この日に相手と会ってほしい」
「わかった」
わたしは返事をしたあと、新妻と長女へ「一緒に行こう」と呼びかけたが「自分で行きなさい」とそっけない。
長女と長男は幼少のころからわたしとちがい顔立ちがよかった。
わたしの祖父と妻の祖父の隔世遺伝かもしれない。
そのことで長男はバレンタインデーにチョコレートを毎年30個ほどもらっていたのでどんな女性だろうかと想像した。
長男は場所を寿司・創作料理一幸茂原店に指定してきた。
当日、大網駅からタクシーで会場に着くと、すでに長男と先方の母娘の顔があった。
彼女の父親も早くに亡くなっている、彼女は中学のときから一途に長男のことを思ってきた、ということなどがわかった。
それ以外の話はあまりかみあわない。
長男はわたしに結婚式を出してほしいような口ぶりだが「ありえない」と一蹴した。
「ここの会計は?」と尋ねると、「お願い」とのことで4人分支払った。
帰宅後、長男から電話がある。
「どうだった?」
「おとこは調子がいいときに出会う女性とそうでないときとで自分の人生が相当変わってくる。おまえはあれだけおかあさんのことが好きだったからおかあさんに似ている女性と結婚すると思っていたが……」
「おれにはないけど、どんなに貧乏をしても生きていけるたくましさがあるんだよね、あいつには」
「糟糠(そうこう)の妻だな。結婚するのはおまえで選んだのもおまえだから産まれてくる子もふくめ責任をもて」
「わかった」
長男の前途をただ見守るしかなかった。