212.「あんなに公平無私なひとはほかにいません」

  1. 朝飯前の朝飯

「あんなに公平無私なひとはほかにいません」

 早朝、可燃ゴミを集会所へ捨てに行くと、元千葉市立中学校校長で村の元区長の小倉丈夫さんの慈顔があった。

 わたしが声をかけると、小倉さんと会話になった。

「おはようございます」

「最近、おくさんの顔を見ませんがお元気ですか?」

「それが、6月7日に悪性黒色腫の転移で亡くなりました」

「えっ、本当ですか?」

「小倉さんには子どもを野山へ連れて行ってもらったり、お宅のブルーベリーを収穫させてもらったり、本当にお世話になりました」

「わたしはいま民生委員をしていますが、次はおくさんにお願いしようと思っていました」

「えっ、民生委員は地域の名士がおつとめですから妻が生きていても適任ではないと思いますが」

「あんなに責任感が強く公平無私なひとはほかにいません」

「過分なおことばありがとうございます」

「それにしても若いのに惜しい!」

「47歳でした。今月、中学1年生の三男を養育するために東京へ転居します。長い間、お世話になりました」

「おくさんに似ているお嬢さんは?」

「短大を卒業して大阪本社の会社へ就職しました」

「そうですか? からだにはくれぐれも気をつけてください」

「小倉さんもお元気で」

 小倉さんとは転居前に挨拶ができてよかった。

 あちこちで妻のいい話しか聞かないが、幽明鏡を異にしているので直接伝えてやることができないのが残念だ。

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