「花を生けて! 菊はさみしいからいや!」
長女が行方不明から生還し、三男の野球チームも優勝した。
アスカ葬祭の木林健伍氏から導師を決めてほしいと言われていたので、東金市田間の新光寺分院へ電話する。
「新光寺分院さんですか?」
「ああそうだ」
「妻がガンで亡くなりまして、導師をおつとめいただきたいと思って電話したのですが」
「わしも肺ガンの末期だ。いま病院から戻ってきたが眠い。寝させてくれ。またあす連絡ほしい」
「わかりました」
この住職とのやりとりを隣で聞いていた木林さんからは厳しい口調で言われる。
「わざわざ病気の住職に頼まなくても、ほかにもたくさんいます。もう少しエリアを広げていただけませんか? 例えば千葉市内とか?」
「そうですね、わかりました」
わたしは新光寺分院に断りの連絡をして、千葉市緑区の聴敬寺へ電話する。
「聴敬寺さんですか?」
「はい、そうです」
「妻が亡くなりまして、本願寺派のお寺さんに通夜・告別式の導師をお願いしたいと考えています。あす、あさってのご都合はいかがですか?」
「うちは住職と副住職がふたりおります。お通夜が住職、告別式が副住職、というのであれば承れます」
「それでお願いします。いずれもアスカ葬祭さんで行います」
「わかりました。住職、副住職に伝えておきます」
わたしは木林さんと会話する。
「木林さん、火葬場も大丈夫ですか?」
「大丈夫です!」
早速、クリスチャンの父へ電話する。
「本家と同じ浄土真宗本願寺派のお寺へ頼むことにしたよ。妻の実家も浄土宗だから」
「ああ、わしに遠慮せんでもええ」
その後、木林さんとの打ち合わせを再開する。
「湿っぽい通夜・告別式でなく、明るくシックに送ってやりたいと思います。祭壇に飾る花も、妻は生前、『わたしが死んだら毎日でもお花を生けてね。菊はさみしいからいや! 明るい色の花がいい』と言っていたので、薔薇やカスミソウにしてください。香典返しの数はあとで増やせるならとりあえず二百。友人代表挨拶は村中都さんと川野母にお願いしてみます」
友人代表挨拶は、村中さんから固辞され、川野母が引き受けてくれた。
一関コーチから連絡があり、「もう30分で千葉の天台につきます」とのことなので長男を向かわせた。
三男が帰ってくると、もうすっかり陽が暮れている。
「ただいまっ」
「おかえり。優勝おめでとう。おかあさんが病院から戻ってきた。手洗いして和室へこい」
「うん」
「おかあさん、とても綺麗な貌(かお)をしているだろう。よく記憶しとけな。もう見られなくなるんだから」
「おかあさん。おかあさん。……」
何度呼びかけても返事がない母親へ向かって必死に声をかける三男が不憫だ。
「全員がそろった。これでようやく旅だちできるなー。おまえのことだから天国でも仲人の奥山素章先生等に囲まれてきっと人気者なんだろうなー」
わたしはパソコンへ向かい、妻の生前と死について「天女になった妻」を書くことを思いついた。
(つづく)※リブログ、リツイート歓迎