138.「優勝はおくさんが風を吹かせてくれたから?」

  1. 朝飯前の朝飯

「優勝はおくさんが風を吹かせてくれたから?」

 千葉リトルリーグの東関東夏季大会決勝戦の結果も気になっていたら、徳川監督夫人からわたしの携帯へ電話がある。

「山ノ堀さん、勝ったよ! 優勝よ! 息子も活躍したわ!」

「えっ、ほんとですか? 次は全国大会ですね!」

「そうよ。ついに4年ぶりの全国大会よ!」

「おめでとうございます。優勝にふさわしくないかもしれませんが、妻が朝9時半に逝去しました」

「えっ、やっぱりそう? 0対1で劣勢だったの。9時半ごろ息子(三男)がデッドボールを機に同点のホームを踏んでから流れが変わった。大倉がツーランホームランを放ったの。そのとき『アゲンストの風が横風に変わった。旗が急に横にふれたのを確認した。逆風なら戻されて入っていなかったかもしれない』と、あとで監督が言ったの! おくさんが風を吹かせてくれたのかもしれないね」

「えっ、そうだったのですか?」

「息子にはどうする? こちらで言うか? それともあなたが言う?」

「わたしが直接つたえますから電話をかわってもらえませんか?」

「わかった」

 三男にかわる。

「おとうさん?」

「優勝おめでとう!」

「ありがとう!」

「じつはなー、おかあさん、けさ亡くなったんだ」

「えっ」

「亡くなってから、試合の応援に行ったのかな? 監督夫人から話を聞いたよ。突然、横風に変わったらしいな」

 電話の向こうでしくしくと泣き声が聞こえる。

「これから焼き肉屋で祝勝会があるらしいな。おとうさんは行けないが、そこへ連れていってもらうか? それとも家に帰ってくるか? 帰るなら一関弘コーチが送ってくださるそうだ」

「帰りたい!」

「了解した。一関コーチにお礼を言うんだぞ」

「わかった」

 東関東連盟夏季大会決勝リーグ第3試合(決勝)は新チーム結成以来、1勝2敗と負け越している銚子リトルリーグが相手だった。

 好投手の前田くんにいつも苦戦を強いられてきたが、この日は若田・井村の両エースが投げ勝った。

 三男は0打数0安打1四死球。

 監督夫人が言うように、妻は悪性黒色腫の闘病から千葉大病院で永眠すると、天女になって友部グラウンドへ舞いおりて三男のチームを応援したのかもしれない。

 彼女の「全国大会で応援したい!」という夢がかなった瞬間だ!

(つづく)※リブログ、リツイート歓迎

アメーバブログへ

関連記事

朝食前の朝食_アイキャッチ

エピローグ

エピローグ メラノーマ(悪性黒色腫)の再発・転移で逝った亡き妻の日記を読み返してみて、あのときなんで彼女の苦悩にもっと寄り添ってやれなかったのかと自らの未熟さ…

朝食前の朝食_アイキャッチ

101.愛犬と一緒に泣きたい心境だ!

愛犬と一緒に泣きたい心境だ! 瀬田クリニック新横浜で妻はアフェレシス(ギリシャ語で「分離」の意。血液中から血液成分、細胞成分を分離する。さらに分離した血漿成分か…

朝食前の朝食_アイキャッチ

216.「友だち、7人できたよ」

「友だち、7人できたよ」 三男が東京の中学校への転校初日だ。 もし「この中学校はイヤだ」と言えば東京の家の住宅ローンを払いながら、また千葉へ引き返さなけ…