115.泣きそうになり、天を仰ぎ、唇をかむ!

  1. 朝飯前の朝飯

泣きそうになり、天を仰ぎ、唇をかむ!

 奥星余市高校の授業参観参加のため北海道へ。

 小樽駅からは左藤母が声をかけてくれたので名古屋の川田母が借りたレンタカーに便乗して余市へ向かう。

 その日は余市町のホテル水明閣へ宿泊。

「水明閣」はニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝氏の命名らしい。

 翌朝、ホテルのバスで奥星余市高校へ。

 授業参観前に幅内和生校長(当時)の挨拶に続いて、教育評論家・夜回り先生の水谷修氏が「さらば哀しみの青春」のテーマで講演を行う。

 在校生、教職員、保護者がシーンと静まりかえって聴いているところへ中ほどの席が言い争いをしていてかまびすしい。

 よく見ると次男だ。

 喧嘩をしかけた次男だけが講堂から出された。

 わたしは講演をまだ聴きたかったが、釣られるように駆け寄ると、次男が咆えている。


「(以前から)悪いのはあいつだ! おれはなにも悪くない!」

 これでは千葉のときとなんら変わらないで成長がない。

 わたしは思わず次男を罵倒した。

「なにを言っておる。おまえが椅子を蹴っとばしていたじゃないか?」

「うるせえー」

「うるせえーとはなんだ!」

 玉ちゃん(玉浦淳子教諭)が割って入る。

「まあまあおとうさん、本人は下宿で待機させますから。おとうさんは講堂へ戻ってください」


 わたしは病でいつ逝くかもしれない末期ガンの妻を病室に残して、後ろ髪を引かれる思いで、次男の成長・雄姿を楽しみにわざわざ北海道まで来たのに……。


 わたしは泣きそうになり、天を仰ぎ、唇をかんだ。

 その後、主役(次男)不在の授業参観に臨む。

 保護者OBから「1年生の授業は騒がしいが、2年、3年となるにしたがい静かで立ち歩く人間がいなくなる」と言われていたが、まさにその通りだ。


 次男も進級したらこうなってくれるのだろうかと一縷の望みをつなぐ。

 PTA総会後、1年C組の学級懇談会に参加する。

 担任の玉ちゃんが次のように述べる。

「1か月たつと男の子は覇権争いでいろいろトラブルを起こします。その点、女の子がめんこい。と言っても各クラスで個性があります。A組は元気でスポーツ大会でも強い。B組はおとなしい。C組はその中間で教科担任によって対応を変えています。きょうの予約面接も1Cは22人と多いので、今後声がかけやすいです。水谷先生は3年に1回講師をつとめてくださっています。この22年間、生徒たちが騒がしくても、一切叱ったことがありません」


 懇談後、玉ちゃんに声をかける。

「講演会ではお騒がせしました」

「あっ、あんなことはしょっちゅうですから気にしないでください。あとで永野下宿へ寄ってきますから。息子さん、家族旅行でしたよね」

「すみません。息子の机はこれですか?」

「そうです」

「『愛国千葉』――。これ彫りこんでいませんか?」

「鉛筆で書いているので消えるでしょう。千葉の友だちと離れて、とても寂しいようです」

「何とか卒業させたいのでよろしくお願いします」

「大丈夫です。彼は一本筋が通っていて、おとなしいながら存在感がありますから」


 学校をあとにして、ニッカ余市蒸溜所のニッカ会館レストラン「樽」でPTAと教職員の懇親会に参加する。

 ここでしか飲めない最高級のニッカウヰスキー「竹鶴」の年代物などを試飲しながら玉ちゃんや左藤さんたちと語らう。


 妻の日記(長女代筆)には次の記載があった。

「5月15日(金)夫いない、北海道へ行く。夕方、脳外科の先生来る。どうしたら回復するか?」


「5月16日(土)三男の野球、長女が連れて行く。13時、従姉のひろんが来る。13時過ぎ、田川先生キター! 夜、次男授業参観なのに北海道から帰ってくる。夫、まだ北海道いる」


 わたしは北海道を満喫したが、次男が有意義な高校生活を送ってくれないと意味がないのだ……。

(つづく)※リブログ、リツイート歓迎

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