87.サプライズだった田川医師夫人

  1. 朝飯前の朝飯

サプライズだった田川医師夫人

 三男へご飯と味噌汁を食べさせ、8時前に家を出て喜多グラウンドへ向かう。

 8時30分からの6年生父兄ミーティングには、前年卒団した山下父の顔がある。

 もちろん事務局長の植武和実さんもいる。

 最初に父母会会長の若田父が次のように口火を切る。

「監督は春の大会が不甲斐ない成績で敗退したためにあるかたへあとを託したが、その方が固辞されたのでペンディングになっている。山下父が心配して連絡してきてくれたので、昨年の活躍の一端を話してもらうことにしました」

 続いて植武事務局長、山下父から話を聴き、「父兄が監督を支えて一致団結してやっていこう」という結論になる。

 その直後にグラウンドを去るのは心苦しいが、妻の入院で溜まっている家事や買い物をした。

 村田動物病院の窓口で「ここあを迎えにきました」と伝えしばらくすると、女性獣医師がここあを渡してくれる。

「電話でお話ししたように、手術の後、不整脈が出たので処置をしました。きょうは大丈夫です。ここあちゃんは人間が大好きなので、しっぽで愛嬌をふりまいていました」

  会計で呼ばれると、42,368円と言われる。

 当初26,000円と聞いていたので質問をすると、「不整脈で心電図を撮って薬を飲ませました。抜糸は二週間後です」とのこと。

 愛犬ここあにとっては大手術で治療には満足している。

 しかし、人間のようにインフォームド・コンセント(充分な情報を得た〈伝えられた〉うえでの合意)がなくて健康保険も利かないので費用への不満が溜まる。

 ペットを飼うのは資産家でないと難しいのかもしれない。

 帰宅後、ヤマト運輸で免疫ミルクを受け取り、長女と一緒に千葉大病院へ向かう。

 長女が「千葉東金道路の高速代がもったいないから外房有料道路を走ろう。誉田―鎌取間は無料だから」と言うので走ってみたが、確かに課金がなく早い。

 誉田あたりでNTTへ勤めている従兄の新見公一氏から電話がある。

「銚子に出かけて魚の干物を買ったので家に届けたいんだけどいる?」

「よかったら千葉大病院へ来てくれませんか? いまそちらへ向かっているので」

 千葉大病院へ着くと、きのうメールでやりとりした元主治医の田川一真医師が病室を見舞ってくれている。

「すっかり齢を重ねてしまいました」

「髪の毛が白くなった以外、本当に若々しいですよ」

「医者というのはずげずげものを言うが、悪く思わないでほしい」

「お者さんは多くの患者を診て忙しいのにまるでスーパーマン。よくやっていただいていると思います。ただ、お医者さんもいろいろなかたがいらっしゃいますね」

「とにかく免疫力を高めるように」

「藤野邦夫氏の『免疫力を高める10カ条』を実践させています」

「大学病院では『栄養ドリンクなんか効くもんか』と言っていたが、開業医になってさらに忙しくなると、つい一本飲んだりする。『免疫力を高める10カ条』も効くと思ってぜひ続けてください」

 なお、田川医師は三男が野球のリトルリーガーだと知っている。


「ぼくも中学時代、野球をやっていました。大学は島根なので広島東洋カープの試合を見に行っていました。いまは独身の弟を誘って千葉ロッテマリーンズの試合を見に行くこともあります」

「(妻が)田川先生は7年前に結婚されたとうかがいましたが、奥さんはどなたです?」

「(少し時間を置き)奥さんがよく知っている人間です。板東っていたでしょ」

 なんというサプライズか? 点滴がうまく血管に入らなくて妻がよくキレた……。

「バンちゃんですか?」

「そう。いまは医師をやめ、主婦業に専念しています」

 田川医師は2時間弱いてくれて、「これから木更津の後輩宅へ寄りアクアライン経由で帰る」という。

 16時35分、従兄から電話がある。

「道路が混んでいて、いま千葉東インターを降りたところ。あと10分で着く」

「悪いですね。駐車場で待っています」

 少しして広島ナンバーのワゴンが到着したので従兄夫妻に声をかける。

「こんにちは。わざわざすみません」

「誰が入院しとってん?」

 2、3分その場に立ち止まり、この間の経緯をかいつまんで説明。

 夫妻は驚きのあまり声も出ないといった様子だ。

「妻が来てもらってもかまわないと言っているのですが」

「それなら行ってみよう」

 地下1階から東棟の病室へ入ると、妻が元気そうという話になる。あとは13年前の手術前後から、最近の子どもたちの育ち方について脈絡のない話をする。

 その後、従兄が語る。

「4月に岡山か広島に転勤になる、辞令が出るのは3月25日なんよ」

「大網のフォーラムへ何度も足を運んでもらったのに。いちどは家に遊びに来てほしかった!」

 川野母から電話があり、「アップを始めた。息子を連れて帰ろうか?」と言われたのでお願いする。

 30分ほどして家へ電話すると、三男がひとりで留守番をしている。

 次男へ「すぐ帰ってやってくれないか?」と頼む。

 ジャスコ(現・イオン)で食料を買い込み家に着いたら三男がひとり寂しそうにしている。

 次男に「帰るとは口ばかりだな」と電話で責めたあと、「ダメな場合は最初に断ってくれないとこちらもアテにするからだ」と心の中でつぶやいた。

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