59.「悪事をはたらいたら坊主頭」

  1. 朝飯前の朝飯

「悪事をはたらいたら坊主頭」



 妻が思う、次男が反抗を助長させた原因は中学校3年生のときに遡る。


 男子生徒のあいだで大金を賭けた遊びがはやり、負けた中川拓也くんの肩に次男がパンチをしてアザが残っているという報告が本人からあった。


 その前に妻は中学校で賭けをした当事者と親たちとの会合へ参加し、中川くんとその母親に頭を下げたらしい。


   帰宅後、次男に「お金は大切だ。今後、お金の貸し借りをしない。みんなと同じように1時間目から登校する。たとえいやなことがあっても兄(長男)のように高校受験のため学校を休まない」といった話をしたようだ。


 長男のイジメも頭をよぎり、うちはなんでこんなに問題を起こすのかと思うと怒りが増幅した。


 わたしは高校のとき謹慎になった同級生が生徒指導の先生から坊主頭にされて改心したことを思い出し、「約束だ! 今度、『悪事をはたらいたら坊主頭』という話になっていたな!』と言ってバリカンを手にした。


 妻は「そんなことを無理矢理しても結果がよくなるはずがない」と食い下がった。


 次男も「いやだ、いやだ」といって暴れた。


 わたしは「おれは謹慎なんて1回もなったことがないが、高校時代に謹慎になった男子はみんな坊主頭で改心したんだ」と返した。


 その夜、次男は「坊主頭では学校へ行けない」と言って家出し、朝方「公民館の軒下で雨宿りしていた」と言って帰ってきた。


 坊主頭はタオルで巻いて隠している。


 妻は次男の名前を呼び、「警察へ捜索願をだす一歩手前だったんだよ。心配させないで。ちゃんとしようよ」と言って抱きしめた。


 わたしは一歩引いたうしろから次男に近づき肩に手をやった。


 その後、次男の反抗はやむどころかエスカレートしていった。


 結局、次男は自分が(悪いことを)“した”ことよりも、(坊主頭に)“された”ことにフォーカスして、「反省」よりも「責任転嫁」のほうが大きかったのだろう。


 いまとなっては次男を坊主頭にしたことは不正解だったといわざるをえない。
 家庭教育もダブルスタンダードがいちばんよくないので、妻ともっとよく話し合って解決策を模索しなければいけなかった。


 わたしは妻や子どもたちの話にもっと耳を傾けようと思い、NHK文化センター京都教室の「傾聴」のワークショップへ参加した。

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