地域のリーダーを育てる
小学校のミニ集会後、講師にそのまま東京へお帰りいただくのはもったいないという話になり、一般市民対象に寿司屋2階で貴重な話を聴く機会をもった。
その参加者のひとりに大里綜合管理株式会社社長の野老真理子氏がいた。
後年、内閣府特命担当大臣(少子化対策)表彰、地域づくり総務大臣表彰(個人表彰)、テレビ東京「カンブリア宮殿」出演など、その名は全国的に知れるところとなる。
ある朝、大網駅に駆け込んでいるところで呼びとめられた。
「あのときのPTAの山ノ堀さんだね」
「と、ところ社長でしたっけ。こんなところ(駅ロータリー)で何をしているのですか?」
「毎週2回、交通整理よ。ロータリーへ車で入ってこようとしたら渋滞で、ここにわたしたちが力を発揮できる場所があると思って交通整理を1年間続けたの。そうしたらそれまでいがみ合っていたバスやタクシー、一般の運転手が話し合いのテーブルにつき、譲り合いの精神が生まれ、渋滞が緩和したの」
「素晴らしい活動をされていますね」
「そうよ。ところでこの前の田邉敏憲さんたちの講演、よかったね。本気になって地域づくりに取り組んでいたり、ためになる話をしてくれる、東京でしか聴けないような講師を毎月大網へ呼びたいの。場所はうちの会社を提供するから」
「講師の選定なら任せてください。でも、そろそろ行かないと遅刻する」
「行って行って。12月2日の土曜に遊びにこない? 午前10時以降なら会社へいるから。友だちを連れてきてもいいよ」
その日、大網白里町幼稚園・保育所PTA連絡協議会で知り合った川島和夫氏を伴ない訪問すると、灼けた丸顔にショートカットの野老社長が迎えてくれた。
「おはよう。眠そうだね」
「仕事が残業続きで……」
「わたしはもう白里海岸と永田駅のトイレを掃除して帰ってきたよ」
「えっ、御社はお掃除の会社ですか?」
「ちがうちがう。母が山武郡市と長生郡市の土地や別荘の草刈りからはじめて、いまは不動産業と建設業の合い間に環境整備として地域貢献活動をやっているの。環境整備はイエローハット創業者の鍵山秀三郎さんが始めた『日本を美しくする会・掃除に学ぶ会』に学んで毎朝30分、会社の床を磨いている。小中学校や駅、海岸にも出かけてトイレ掃除をするのは土曜が多いかな?」
「会社が地域貢献をする意義はなんですか?」
「『こんな町に住んでみたい』というような地域力をあげないと、不動産も建築も伸びないの。せっかく大網に住んでくれても、『東京や横浜は講演会やコンサートへ気軽に行けてよかったけど、ここはない』と言われるとつらい。だから『一緒に文化を育てていきましょう』と言っている。そのため学童保育やトイレ掃除、クリーンロード、大網駅の花植え、英会話教室など120(当時)の地域貢献活動を同時に走らせている。それらを社員にひとり最低一貢献を課しているから彼らも成長する。社員で回らなければ市民にも役割を担ってもらっているの」
「おもしろそうですね。土曜だけなら会社の業務に支障も出ないので協力しますよ。地域がよくなる話だし」
「名前はどうする?」
「東京のJIフォーラム(加藤秀樹代表)に負けないスピーカーを集めるという気概で、九十九里のあとへ『フォーラム』をつけましょう」
「それいいねー。来年1月から始めたいんだけど」
「ずいぶん急な話ですね。第1回は『青い目の台風娘』という愛称で小布施の造り酒屋・枡一市村酒造造を変革したセーラ・マリ・カミングスさんが最適です。ちょっと待ってください。電話してみるので。……セーラさんは2月10日であれば引き受けてくれるそうです。2月から始めましょう」
「ダメ。どうせなら1年最初の1月から始めたい」
1月13日は、『プレジデント』の発行部数を飛躍的に伸ばしたプレジデント社社長(当時)の藤原昭広氏に引き受けていただいた。
その1月140名、2月166名の参加があり上々の滑り出しとなった。
8月の夏休みには、未熟児だった三男を初めて大里綜合管理の学童保育に預けると、キャンプや子どもたちだけの房総半島一周などを楽しんだようだ。
大里の学童保育は小学生の低学年を高学年や中学生が面倒を見る仕組みだ。
野老社長は力強く語る。
「学童保育で育った子どもたちは徐々に危機管理やリーダーシップを醸成しておとなになる。やがてうちへ入社してくれればいいけど、そうでなくても経営者や地域のリーダーになることを期待しているんだ!」