61.「もうダメだ! 一緒に死のう!」

  1. 朝飯前の朝飯

「もうダメだ!   一緒に死のう!」

 妻があせって勤務中に電話をかけてきた。

「次男がタバコを万引きした。すぐ帰ってきてほしい!」と。

 わたしが仕事で1本電車に乗り遅れて、東金市内のコンビニエンスストアへ着いたとき、妻は目を真っ赤に腫らして泣いていた。

「遅い! どうしてもっと早く、約束の時間に戻ってきてくれなかったの?」

「ごめん。電車が目の前で発車してしまい遅れた。これでも急いで帰ってきたんだ」

「もうお詫びはしたわ。でも、あいつ(次男)のふてぶてしい態度ったらなかった。わたし、もうこのコンビニには行けない」

「ひとりで対応させてしまい本当に申し訳なかった」

「もういい!」

「次男は?」

「バイクで行った」

「どこへ?」

「知らん」

 それから数日後、妻は、「ここへ座るように」といって次男をノアの助手席に乗せると、白里海岸へ向かった。

 車窓からは、横に66キロ広がる九十九里浜の白砂の向こうに「バシャーン、バシャーン」と何度も寄せては返す大波が見える。

 遠くでサーフボードに乗ってサーフィンに興じているひともいる。

 その様子にしばらく目をおいたまま、妻が思いつめたように口を開いた。

「おかあさんは悔しい。あんなにいい子だったあなたがなんでこんなにおかしくなったの?」

「……(次男は黙ったまま口を開こうとしない)」

「絵も剣道も上手だった。中学1年生のときは学級委員としてクラスを引っ張り三者面談ではいつも褒められた。なのになんで?」

「おぼえてねー」

「もうダメだ! 一緒に死のう!」

「死にたいならおまえひとりで死ね!」

「えっ!」

 みずからのお腹を痛めたわが子の、このひとことは、妻にはボディーブローのように効いたことだろう。

 それから以降、明朗だった妻がなにもしないで、ぼーっとしていることが増えていった。

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