妹の初登板
義父母を東京駅まで見送るため、大網駅10時31分発の快速電車に乗る。
東京駅へ昼前に着くと、予約しているのぞみ発車まで余裕があるので、いったん改札口を出て地下飲食街で一緒に寿司ランチを食べる。
駅へ戻り、義兄の子どもたちへかわいい菓子を買って託す。
東海道新幹線改札口で「ここまで来たら迷わないから」と言われ手をふり別れる。
会社には12時40分着。祝祭日のある週の土曜は出勤日(当時)。有給休暇を申請しているもの以外は基本的に出勤する。
遅刻届を申請し、午後校正をして定時に退勤。
自宅へ帰ると、妹から電話がある。
「あす昼ごろ行こうと思う」
「仕事で疲れているだろう。夜、三男への授乳がメインだから16時に大網着でいい」
翌朝、長男がぶっきらぼうな物言いをしてくる。
「バトル鉛筆を買うので、どうしてもジャスコ(現・イオン)へ行く」
「行けばいいじゃないか?」
「ひとりじゃ行けない」
「だったら『連れて行ってください』だろう」
「連れていってください」
素直にお願いをしてきたので15時に家を出る。
ジャスコへ着くと、「カード会員様2割引き(食品を除く)」とあり、湯飲みや子どもたちのトレーナーとソックスを買う。
わたしが選んでいると、長男がやってくる。
「バトル鉛筆をやめてミニ四駆を買った」
「どちらでも構わない」
わたしがレジで並んでいると、今度は長女が要求を突きつけてくる。
「ゲームやってきてもいい?」
時計を見ると16時が間近だ。
「おばちゃんが駅に着く時間なのでダメだ」
長女と長男は「ダメだ」と言われることを見越していたのだろう、次男とともに駆けていき、わたしが支払い後に振り返ると行方が不明だ。
しかたなく、ひとりで駐車場から駅へ向かう。
約束の時間を4、5分遅刻して駅のロータリーへ着くと、妹が公衆電話の前に立っていて、こちらを向いた瞬間に手を振ると気づいたらしい。
小走りでやってきて、車に乗り込む。
わたしは子どもたちが消えてしまい、遅れたことを詫びる。
妹を乗せて再びジャスコへ行く。
彼女にはそのまま車中で待機してもらい、3階の売り場をひと通り捜すがみつからない。
1階の食料品売り場や大型スクリーン前にもいない。
インフォメーションコーナーで館内放送してもらうとすぐに、しょげ返る長女を筆頭に3人が手をつなぎやってくる。
わたしは「捜したぞ!」とひとこと文句をたれ、3人を妹がいる車の中へ押し込む。
再び1階で食料品を買い込み、エレベーターを上がる。
車へ戻ると、3人ともしりとりかなにかで盛り上がっているが、長女はわたしの顔を見るなり突然しおらしくなり「パパ、ごめんなさい」と口走る。
家に着くと、三男にミルクを飲ませている妻と妹が挨拶を交わす。
「こんにちは。どうですか?」
「いらっしゃい。すみませんね。遠路はるばる」
「なんでもやるんで言ってくださいね」
「ありがとう。まずくつろいで」
わたしは風呂の浴槽とスパゲティーを茹でるための湯を沸かす。
風呂がいっぱいになると、子どもたちを連れて入浴。もちろん、三男の沐浴もだ。
子どもたちはスパゲティーを喜んで食べる。
食後、ジャスコで買ってきた誕生日ケーキを出し、大きいローソクを3本、小さいローソクを5本たてる。
長女は電気を消して、妹に「ローソクの灯を消して!」と催促。
みんなで「ハッピーバースデー・トゥーユー」を歌う。
妹は「こんなに大勢で祝ってもらったのは久しぶりだ」と言って、素直に喜ぶ。
今夜の三男の面倒はわたしと妻でみることにして、妹には「ゆっくりやすんでくれ」と伝える。
わたしは三男が泣き出した深夜0時30分と4時にミルクを飲ませてやる。
4時のときに妻が起きようとしたので、哺乳瓶を取り上げ忠告する。
「キミが風邪をひいたらみんなが大変な思いをするのでおとなしく寝ていてほしい!」
「あんただって風邪ひいたら大変なんよ。ましてや倒れたらどうするん?」
「おれは丈夫だ! 風邪などひくもんか!」
熟睡できなかったせいか、会社には早めに出社し、名古屋のイベントの原稿に着手。
午後いちばんに校正紙がドサッと届き、奮起して取り組む。
だが、ときどき眠くなり、トイレで顔(特に目)を洗い、栄養ドリンクを飲んで、自席へ戻る。これを二、三度繰り返す。
不思議なもので、夕方になると仕事のペースが上がる。
東京駅でパンをかじったが、家に着いて空腹となり、カップヌードルと湯豆腐を食べる。
その夜は妹が「うちが(三男の)世話をする」と言ってくれたので、わたしが1時に飲ませ、その後を託した。