28.泊まるだけ介護

  1. 朝飯前の朝飯

泊まるだけ介護

 小学校の夏休みが終わり二学期が始業。

   長女・長男を小学校へ送り出すと、母と次男とわたしは千葉大病院へ向かうが駐車場の込み合うピークだ。

   入口から1キロメートル手前までじゅずつなぎで身動きがとれない。

 仕方なく、コンビニの駐車場へ車を停め、ジュースなどを買い込み、若奥さんらしい小綺麗な女性に話しかける。

「駐車場へ2、30分車を停めさせていただけませんか?」

「きょうはいつもよりもよけいに混んでいますね。でも、店長から『(通院の車を)停めさせてはいけない』と厳しく言われているんです」

 ここは攻めの一手しかない。

「(思い切り頭を垂れて)妻が千葉大病院へ入院しています。赤児がいる海浜病院に行くためすぐ戻ってきます。よろしくお願いします」

「わかりました。では向こうは配達の車が停めるので、手前のスペースに置いてください」

「ありがとうございます」

 店員3人の中ではこの女性がライトパーソンに違いないとふんでの交渉が効いた。

 車だと2~3分の距離でも、徒歩だと時間がかかる。母は「いつも歩かんけえなあ」と言って、ゆっくりと歩を進める。

   ようやく病室へたどり着くと、妻は消毒治療中で、30分近く待たされる。わたしはあの若奥さんらしいひとの顔が浮かび、申し訳なく思う。

 治療後に入室すると、妻はベッドから降りてニコッと笑う。本当はいろいろと話を聴いてやりたいが、駐車場の件と、長女・長男の下校までに帰らなければならないので早々に退出。

 海浜病院が初めての母に「看護婦さんから体の拭き方の指導を受けるように言われているけど、時間があまりないので沐浴とミルクの飲ませかたにしよう」と伝える。

 時計を見ると、すでに13時をすぎている。

   稲毛海岸「梨花園」で食事を済ませ、家へ15時着。長女と長男は帰宅して、玄関前にカバンを放り投げて近所で遊んでいる。

 長女が「弟は可愛かった? わたしも一緒に行きたかった!」と言う。わたしが「それじゃあすはみんなで見に行こう」と言うと、長女が「本当ーっ! わーい!」と歓声をあげる。

 夜、妻の病室を訪ねる。わたしは今晩までレンタルのベッドを借りており、例によって様子見で泊まるだけ介護だ。

 朝起きると、妻は「あれ」とか「これ」とか言ってわたしに指示する。

「『あれ取ってください』『これ取ってください』だろう。本当にもう!」

「あのう、すみませんがタオルを取っていただけませんでしょうか?」

「よろしい、それじゃ取ってあげましょう(笑い)」

 妻と笑いながらそういう言葉を交わして、11時に病院をあとにする。

 15時に長男が帰宅すると、車で小学校まで行き、長男に長女を迎えに行かせて門で待つ。そのうち、ふたりが駆けてこちらへやってくる。

「約束したのに遅いじゃないか?」

「ごめん」

 海浜病院には、16時訪問予定で、千葉東金道路と湾岸道路を乗り継ぎ、湾岸千葉インターで一般道路へ降り海浜病院へ到着。小学校からの所要時間は約40分だ。

 子どもたちへジュースを1本ずつ買い与え、3階の待合室で、長女と長男に宿題に取り組ませる。

 新生児室へ到着すると、看護婦さんとの会話。

「さっきまでミルクが欲しいと泣いていました。もし時間があったら先にミルクを飲ませ、少し時間をおいて沐浴させてください」

「どれくらいおけばいいですか?」

「30分くらいです」

 母は「むかしからおとうさんが子どもを入浴させて、わたしはタオルで受け取る役だった」と言うので、わたしが三男を沐浴させて母へ渡した。

 途中、長女が2度、「(次男が)暴れ回って手に負えない」と言う。何度か注意をするが、効き目がない。

   その間、三男を窓越しに見せると、みんな一様に「可愛い」と言う。

 千葉大病院には18時着。妻が食事時間のため病室へ顔だけ出して、3階レストランで食事をとる。長女と長男は、最もボリュームがあり高額な「わたしはエビフライ弁当」「ぼくは幕の内」と言って譲らない。

 わたしは、残さずに必ず食べることを条件に注文してやる。長女はがんばって平らげるが、長男は半分以上を残す。わたしは長男に「今度はパパが決めるからな」と念を押す。

 皮膚科の看護婦さんへ「術後1週間経ったので、田川一真先生からリンパ節の結果を聞きたい」と話すと、田川医師のポケベルに連絡してくれ、「19時ぎにお話したい」とのこと。

 田川医師は「術後の経過はすこぶる順調です。皮膚移植上、背中は中心部に少しムラがあるだけで、9割ついています。脇の下も、いつでも抜糸していい状態です。リンパ節の検査の結果は、技師さんの夏休みの関係で今週金曜か来週月曜になると思います」

 妻には「術後の経過はとても順調のようだ。いますぐにでも抜糸できる状態だが、最近の糸は衛生的にもちがいいので、もう1週間そのままにしておくらしいよ」と伝える。

 自宅へ戻ると、子どもたちを風呂に入れ、明日の用意をさせて寝かせる。ところが長女だけは、ひとりで寝るのが寂しいと駄々をこねる。

 翌日も長女と長男に「海浜病院へ行こう。下校時、校門前で待つ。その足で病院へ行こう」と言ったが、わたしひとりに変更する。

 13時の給食時間終了に合わせて小学校へ行き、長女と長男の教室をそれぞれ訪ね、用件を伝える。

   長男の教室で担任の一橋玲子先生に会釈すると「連絡帳を見ました。おめでとうございます、と言っても奥様の入院で大変ですね。何と申し上げてよいやら」と声をかけられる。

 千葉大病院では妻と一緒に岡山産の葡萄を食べる。海浜病院では三男をひとりで沐浴させ、ミルクを飲ませたあと、佐久間瞬医師に尋ねる。

「当院ではどこのミルクを使用していますか? 退院後は、どのメーカーがいいですか?」

「宣伝になるとまずいのであまり言いたくないですが、現在は未熟児用の明治レメです。今後はどのメーカーのものでも大丈夫ですよ」

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