長男誕生とマイホーム取得
家族で大網白里町(現・大網白里市)を訪ね、駅前の不動産会社で、草加とは一転、気の弱そうな腰の低い営業マンに町内細草の物件を案内してもらう。
「いま建築中で毎週のようにお客さんが訪れます。手付けを打ったもの勝ちですよ」
ここは海から2キロほど内陸に入っていて大きな河川がないので水害の心配もないだろうと思い、営業マンへ10万円を渡した。
月曜日の朝、加藤佳寿夫取締役(当時)へ報告。
「バカだなー!」
2度目の「バカ!」だ。
「えっ、大網ですよ」
「そこは白里だ。白里は百里に一足りないから九十九里と一緒で、浜だ。海に会社があるなら構わないが、週に5、6日が東京ならもっと駅に近いところがよくないか?」
「不動産会社には、水害でなくどう言えばいいでしょうか?」
「きみは東京本社から離したくないが、福岡営業所を出す計画もある。第二子誕生でミルク代だってかかるだろう」
帰宅して妻に伝えるとあきれられる。
「おっしゃることごもっともじゃない。でも、わたし断るの苦手。悪いけどひとりで行って」
次の週、駅前の不動産会社で事情を説明。
「急に福岡へ転勤の話が出てきたので、なかったことにしてもらえませんか?」
営業マンにミルク代10万円を返してもらった後、大網駅から10分圏内を車で走る。
「ここだ!」と、閃きのようなものがあり、近くの商店で尋ねた。
「この辺に住みたいのですが」
「地元の不動産会社へ行ったらいい」
紹介された会社の扉を開けると、気のいいアバウトなオヤジ社長(当時)と眼光鋭いシビアなムスコ専務(現・社長)の家族経営。
「だっぺ、だっぺ」と激しい訛りの社長が白のクラウンで2件案内してくれた。まさに「ここだ!」と閃いた場所の近くだ。
「いまちょうど売り出している土地だっぺ。こっちは昔、山だっぺ。地盤もしっかりしているっぺ。敷坪は私道負担16坪を入れて84坪だっぺ。学校に近いし、陽当たりも良好だっぺ。こっちは40坪から100坪まで希望通りにいくらでも区切れっぺ」
自宅へ戻って妻と話した。
「地元の不動産会社が注文建て売りをやっている。今度は手付け金の必要がないので行ってみないか?」
「わかった。来週行こう」
こうして4週連続の草加・大網の不動産巡りだ。
妻も「だっぺ、だっぺ」の社長を気に入った。
「図面はお客様が自由に引いてください。住宅雑誌をお持ちになりますか?」
専務からはハウスメーカーのカタログ等を渡された。
翌朝、加藤取締役に話しかけると笑顔だ。
「うん、ここならバッチリだ。注文建売なら完成が楽しみだなー」
次の日曜日、不動産会社に赴き正式契約を伝える。
「9月中旬が第二子の予定日です。それまでに引っ越して家族を迎えたいと思っています」
「ずいぶん急ですねー。棟梁と話をしてみましょう」
毎月1、2回、自家用車を飛ばして家が建つ様子を見に行くのを楽しみにし、8月のお盆夏休みに妻の出産準備で実家へ妻と長女を連れていった。
妻は入院後、わたしの希望通り長男を9月19日に出産し、1週間後に義父母とともに4LDKの新居へ帰ってきた。
新築は、杉や檜の香りが心地よい。
わたしは広い庭でわずかだが家庭菜園を始めた。