「『大学なんか行くな!』と殴られたから殴り返した!」
次男は大網の友人に「おれ、大学へ行く!」と宣言していたので、予備校へ通学する道すがら英単語のカードを開いて覚えるなど1日13時間の勉強を自らに課した。
しかし起きられない病は依然つづいている。
高校時代は「起きなきゃおばちゃんがチューするぞ」と言って起こしてくれるおばちゃんがいたが、東京の自宅ではそれができない。
わたしは高い予備校の授業料を払っているのになんだと思い起こすと口論になった。
「起きろ!」
「眠い! きのうは遅くまで勉強した!」
「なんのために予備校へ通っていると思っているんだ!」
「うるさい!」
顔面から血を出しながら帰ってきたこともあった。
「どうしたんだ?」
「喧嘩してきた」
「誰と?」
「千葉の先輩から呼び出され、『大学なんか行くな!』といって殴られたから殴り返した!」
「なんで会ったんだ! 電話にでなきゃいいじゃないか?」
「しつこいから会って話をつけようと思った」
1年間で偏差値を相当あげ、志望校の法政大学経営学部経営学科ほかを約十回受験したがいずれも届かなかった。
「おとうさん、全部落ちた」
「よくがんばったな。かわいそうだが、『次はない』と言ってたよな」
「わかっている」
「これからどうする?」
「千葉で鳶(とび)をするよ」
「そうか」
次男はこの間、ひとが変わったように勉強に取り組んだが、桜が咲かなかった。
それは動機が「大学へはいりたい」にとどまっていて、「大学へはいってこうしたい!」という強い想いが希薄だったからかもしれない。
次男は大学進学を断念し、千葉で鳶をした。