ネクストバッターズサークルでゲームセット!
第17回日本リトルシニア全国選抜野球大会が大阪の舞洲ベースボールスタジアムや万博記念公園野球場他で行われる。
三男がわたしに声をかけてきた。
「おとうさん、大阪の選手権大会へこない? 最近、バッティングの調子がいいから代打でだしてもらえるかもしれないんだ」
「バットがほしいのか?」
「うん。金属バットはボールを打つたびに弱ってくる。ぼくのバットはもう使いすぎて飛距離がでないんだ」
「じゃ、ウガイスポーツへ行こう」
「ありがとう」
わたしは三男へZETTの5万円のキャッチャーミットにつづいて3万円の金属バットを買ってやり、一瞬でも三男が代打で出場する姿を見たくて大阪へ帯同した。
西練馬は1回戦で市川リトルシニアに7対0で快勝し、三男の代打の出場機会はなかった。
2回戦は甲子園リトルシニア相手に2対5でに敗退した。
三男はネクストバッターズサークルでZETTのバットを手に膝を立てて待っていたが、無情にも主審の「ゲームセット」がコールされる。
ついに三男の名前がアナウンスされることはなかった。
三男に買ってやったZETTのバットは試合でレギュラーの選手たち何人もが使っていた。
帰京して、わたしは三男に思いの丈をぶちまけた。
「ブルペンでキャッチャーミットが『パーン』といい音がして、『ナイスボール』っていう大きな声はしたけど、バットは違う人間が使っていたじゃないか?」
「みんなが『貸してくれ』って言ってきた。チームが打ってくれればいいじゃん」
「おまえなー、あのバットはおまえの打力向上のために大枚をはたいて買ってやったんだ。レギュラーたちはほしけりゃそれぞれ親が買うだろう? おまえにええかっこうさせるほど、うちの経済状態はよくないんだよ」
「わかった」
「それよりバッティングを専門家に教わったほうがいいかもな?」
選手権大会の優勝は茨城県の取手リトルシニアで、三男がリトルリーグ時代に対戦した選手たちも何人かいた。
息子が試合にでられない悲哀を親として初めて体験しているが、いちばんつらいのは当の本人かもしれない。