「言うことが通じないのなら監督をやめる!」
夕食時、千葉リトルリーグから世界大会に出場する十四選手とその親たちへ徳川監督邸に緊急招集があった。
選手たちが車で待機し、親たちだけが入室する。
「全国選手権大会以降、自分の息子が祭りに参加した人間は手を挙げてほしい!」
「……(無言のまま十人ほどが手をあげる)」
「なんで行かせたんだ! アメリカの本部から『選手のうちひとりでも鳥インフルエンザに発症したらチーム全員を受け入れない』という通達がきていると言ったはずだ! 全国のリトルリーガーたちに申し訳ないと思わないのか?」
少しして若田父母会会長が反論の口火を切る。
「1か月間、『外出禁止』と言われ、子どもたちも言いつけを守ってきました。それももう限界があります。対外試合も禁止、遊びもできない。どうやってモチベーションを維持しろとおっしゃるんですか? それと監督は外資系企業にお勤めだったので英語も堪能なんで本部の通達を気にしすぎるのだと思います。そんなの知らなかった、でも通用するでしょう?」
「おれの言うことが通じないのなら監督をやめる!」
「待ってください。監督が優勝させてくれたんですからやめないでください。祭りに行かせた責任は父母会にあります。会長のわたしと息子がやめることで幕引きとさせてください」
「投打の柱の若田がいなきゃ試合にならんだろう!」
「監督、こんなに選手を委縮させていたらアメリカへ行ったって勝てませんよ」
「勝てなくていい。おれは4年前、高本拓哉主将や平井裕介副主将(ともに当時)たちと初めてリトルリーグの世界大会へ行って感動した。この素晴らしい体験を彼らの後輩たちにも味あわせてやりたいと思ってこれまで取り組んできた。そしてようやくつかんだ世界の切符だ! 負けても行くだけで価値がある。それを親たちにもわかってほしい!」
「監督の想いを踏みにじったことは大変申しわけなく思っています。これから渡米まで公衆の場に行かせないことを約束しますので今回の一件はどうかお許しいただけないでしょうか?」
「くどいが、もしひとりでも鳥インフルエンザ等伝染病に罹患したらアウトだ! 今後については徹底してほしい!」
「わかりました」
続いて選手たちも車をでて監督邸で座る。
「外出禁止令を破って祭りに行ったやつが相当数いて、おれはしょうじきがっかりした! 今度、行ったらアメリカを断念せざるを得ない。わかったか?」
「はいっ!」
帰りの車中、三男に声をかける。
「おまえも行ったらしいな。鳥インフルエンザが猛威をふるっている。今後、人と交わるようなところへは行くな。鬱憤はアメリカへ行って野球で晴らせ!」
「わかった」
徳川監督の本気度を、選手も親も実感した夜だった。