「おにいさんの同級生の影響が及ばない遠くへ」
けさは雨が降っていて、梅雨があけていないように思える。
一昨日、中学校の1年C組担任の荻原智恵子教諭へ電話して、きょうのアポイントをとっていた。
8時に中学校へ着く。
職員室で名をなのると、担任の荻原教諭が校長室隣の応接室へ「どうぞ」と手招いてくれた。
この部屋には小学校のPTA会長時代に訪ねたことがあり2度目でなつかしい。
きょうは荻原教諭と学年主任の川栗邦雄教諭のふたりと面談することになった。
わたしが話を切り出すと主に川栗教諭が答えてくれる。
「知人から三男が『不良と付き合っている』と聞きましたが、学校ではどんな様子ですか?」
「息子さんは小学校時代からタバコを吸っている同級生と付き合っています。本人は吸っていないらしいです。問題なのはおにいさん(次男)の同級生やその弟の3年生にくっついていることです。おにいさんの同級生は高校中退した人間が多く、1対1で話をすると陽気でいい子ばかりですが、暇を持てあまして学校のまわりをバイクで走っています。息子さんはいまは明朗快活ですが、個性が強く人望もあるので反抗期を迎えたとき、おにいさん以上になるかもしれません」
「同級生等との関係はどんな感じですか?」
「息子さんがおにいさんの同級生と平気で話をするので、それを見た3年生が『山ノ堀さん』と呼んでいて、かなりいびつな関係です。同級生も、息子さんに変なことを言ってはいけないと怖がっています」
目の前が真っ白になる。
この子だけは自分が幼稚園のときからPTA等へ積極的に関与してきたので絶対によそ道にはずれないと自負してきた。
幼稚園時代の恩師でアヒル保育園の御平桂園長から「むすこさんはあたまに障碍がある同級生からかおをつねられても押されても笑って、けっして仕返ししないやさしい子でした」と聞いたこともある。
上の子の子育てで失敗した反省を踏まえて軌道修正したはずだが、親の態度より兄弟の影響を受けるのか、たまに腰パンをしたりガイコツのTシャツを着ていたのですでに兆候があったのかもしれない、と思うとくやしくてしょうがない。
わたしは川栗教諭へストレートに質問した。
「三男をどうすればいいでしょうか?」
「環境を変えることでしょう」
「転校ということですか?」
「そうです。おにいさんの同級生の影響が及ばない、できるだけ遠くでないと意味がないと思います」
「わかりました」
わたしは雨空をあおぎ見て、肩を落とし、中学校からまっすぐ会社へ向かった。