150.「おくさまはあんなにお元気だったのに」

  1. 朝飯前の朝飯

「おくさまはあんなにお元気だったのに」

 全日本リトルリーグ野球選手権大会の必勝祈願と壮行会の翌日だ。

 長男が「三男を連れていく」と言っていたのに起きてこない。

 仕方なくわたしが三男を乗せて喜多グラウンドへ向かい、8時15分につく。

 コーチや選手の父親が草刈り等に精をだしているが、わたしは長男の高校剣道部同期の父母会の来客があるので失礼して家で大掃除だ。

 まず階段へ置いてある荷物をすべて2階へあげ、階段と廊下、トイレを掃く。

 次に玄関の靴の整理整頓、和室においている朽ちた生花や果物を処分し、庭の掃き掃除等を行なう。

 そのうち飯山父、中倉母、宇藤母がわが家を訪ねてきてくれたので、和室へ通して妻の闘病生活について語る。

「遠路、ご足労いただき恐縮です」

「このたびはなんと申しあげてよいやら、ことばが見つかりません」

「ご焼香いただき故人も喜んでいると思います」

「おくさまはあんなにお元気だったのに」

「妻は背中の白い突起物を診療所で切開したら悪性黒色腫となり26センチに肥大し、それを切除する手術には成功しました。しかし12年後に再発・転移し、抗ガン剤治療や免疫細胞療法、ガンマナイフ(ピンポイントの放射線治療)等さまざま試みましたが、帰らぬひととなってしまいました」

「病気を抱えているようには見えませんでした」

「わたしや子どもたちにとても献身的でした。みんなで『あれやって』『これやって』と押しつけないでもっと軽くしてやればよかったのですが……」

「おくさんはきっと旦那さんや子どもさんたちにいろいろしてあげたかったのだと思います」

 あい間を見て長男に挨拶させる。

 香典は6名の連名だが返礼品が3個しかない。

 お三方に渡し、他の3人にはアスカ葬祭に追加発注し郵送した。

 その後、長女の小中学校同級生だった中塚母が「知りませんでした」といって焼香にきてくれ返礼品は「大丈夫」という。

  あらためて妻の人気ぶりをまのあたりにして褒めてやろうとするも、当人はいない。

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