120.「ここへ当分おらせてもらえんか?」

  1. 朝飯前の朝飯

「ここへ当分おらせてもらえんか?」

 千葉大病院の皮膚科医師から次のように説明を受ける。

「脳室が左右対称でなく一方が閉塞しています。造影剤を投与すると、病気の部分がくっきりと映り、頭頂葉から後頭葉にかけて多房性の腫瘍が認められます。色の濃淡から脳出血の可能性もあります。
 あたまは頭蓋骨があり膨らむことができないので、脳実質は逃げ場がない。脳圧が上がるのであたまが痛い。今後、脳のむくみをとる必要がある。2月時点では脳に転移と思われる所見はなにもなかった。勢いがある転移による腫瘍は考えづらい。しかし視覚野の欠損がとれない。やはり脳転移による症状であろうか? まずはステロイド治療を試みます。これで脳圧が下がり食欲不振などの病状が進んだひとは元気になるが、副作用があるのでずっと続けることはできません。
 抗ガン剤は体力を落とすのでやれません。奇跡的に肺のほうは咳をする程度でうまくコントロールできています。出血も内出血と一緒で自然に消えます。頭は血液脳関門があるため脳実質まで薬が届きません。頭の痛みはないが、肺の痛みがある。

 ガンマナイフは腫瘍が3センチ以内であればピンポイントで撃退できます。数はいくらでもOK。ピンで麻酔し、頭を動かさないことだけ我慢してもらえばいいのでつらい治療ではない。場所によっては痙攣や発作が起こる可能性があります(特に脳の真ん中の前頭葉)。運動野に腫瘍があると使いづらい。放射線治療では転移した腫瘍が少し小さくなることが期待できるものの、出血を誘発する可能性があります。全頭照射だと痴呆や脱毛の可能性もあり、かなりリスクが高いです」

 千葉大病院で説明を受けたあと、見舞いにきてくれた義父、義兄、それに手伝いにきてくれた母をカローラに乗せ、大網へ向かう。

 日本料理「岩勢」に連絡すると食事も大丈夫と言われたので3人を降ろして、三男を家へ迎えに行く。

 岩勢は業界関係者等の飲み会で大繁盛だ。

 三男を連れて岩勢へ戻ると、義父は九十九里の地酒「梅一輪」、義兄はビールを飲んでいる。

 ふたりにはこの地の名産のなめろうと焼きハマグリ、ながらみを勧め、三男には上にぎり、わたしは上ちらしを注文。

 自宅へ戻るとしばらくして長男が静岡から帰ってきて、義兄は「高うなったのう!」と言って背くらべをする。

 178センチの長男も180センチと長躯の義兄にはかなわない。

 その夜は自宅で2時まで酒を酌み交わした。

 義父から尋ねられる。

「当分、ここへおらせてもらえんじゃろうか?」

「もちろんどうぞ。毎日でも病院へ連れて行ってあげますよ」

 この日から、妻のことを「目に入れても痛とうねー」と言う義父との同居が始まった。

(つづく)※リブログ、リツイート歓迎

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