112.「あなたの財産は笑顔です」

  1. 朝飯前の朝飯

「あなたの財産は笑顔です」

 セミナー講師の田中真澄氏が提唱する「GO!・GO!・GO!の精神」で5時55分起床。

 三男、「きょうは部活がないよ」と言うも「朝だ」と起こす。

 炊飯器にご飯がなく、焼きおにぎり、ちくわ天、コロッケ……と冷凍食品オンパレード。


 三男は「おにぎりがおいしい」と言う。

 わたしは「大人になってから牛乳を飲んでも大きくなれない。いま飲めば打撃が確実にパワーアップする!」と言って飲ませる。

 7時12分発の普通電車へ乗り、蘇我駅で京葉線、新木場駅で東京メトロ有楽町線に乗り換える。


 このコースだと通常市ヶ谷駅で降りるが、きょうは手前の麹町駅から歩くと出社が9時ギリギリになる。

 10時に長女へ電話し、「きょうは何時になるか?」と尋ねると、「美容院で髪をカットするので20時11分に大網駅着の予定」とのこと。


 わたしは1時間残業し、東京駅19時発の特急わかしおに乗り、大網駅に19時47分着。


 帰宅後、スーツやカッターシャツを持ってクリーニング店に駆け込むも20時閉店でアウト。


 大網駅へ長女を迎えに行く。

 長女は半袖のワンピース姿で、「どうしたんだ?」と尋ねると「大阪で買った」とのこと。


 家に着くと、妻は起きてはいるがふらふらだ。

「長女が帰ってきたから岩勢に行こう。岩勢なら個室なのであまり人目を気にしなくていいから」との呼びかけにも「しんどい」と言って応じない。


 米を三合炊くが、三男と長女のふたりでほぼ平らげる。

 長女が初給与を手に、わたしと妻へ「正座して」と言い、会社からの業務命令を読み上げる。


 妻には誕生石アクアマリンのネックレス、わたしには革製キーケースをプレゼントしてくれる。


 長男には本人の希望をいれてグッチの財布、次男は「リクエストがないので買っていない」とのこと。


 妻はひとこと「ありがとう」と言って、すぐにベッドへきびすを返す。

 体調が相当悪いのかもしれない。

 長女がわたしに話しかけてくる。

「店長も先輩女性も、わたしに特別よくしてくれるの」

「それならずっと大阪へいたらどうか?」

「先輩が『ひとが半年で覚えることを、1か月でマスターしている』と言ってくれた。半年後に出店する東京店に転勤させてもらうつもりなの。家から通おうと思っている」


 中学時代、弟(長男)とは逆に要領がよく通知表はほぼオール5で志望校へ進学したが、高校や短大ではそれが通用しないで落ちこぼれた。

 わたしは「要領だけじゃ生きていけないぞ。本を読め!」と口を酸っぱくして言った。

 その娘も接客業で社会にでると、社交性が大きな武器になっているようだ。

 この日、妻は少女にあてて日記を書いていた。

「きょうは長女が帰ってくる。あなたの財産は笑顔です。新社会人おめでとう。初めてこの家から旅立つあなたにいろいろ準備してあげたかっただけどできなくてごめんね。元気になったら食べ歩きの大阪を案内してね。楽しみにしています。
 ちょうどあなたの大阪行きを決断するころ、母のガン転移がわかり、あなたも悩んだことと思います。家族全員で告知を受け止めてくれて、どんなに心強かったか。
 なるべく家族一緒にいる時間、このチャンスを大切にしてほしいと思います。
 あなたの笑顔にどんなに救われたか、あなたをいつも応援しています。社会に出ても、みんなから好かれる人間になってくださいね。あなたの笑顔があれば大丈夫です」

(つづく)※リブログ、リツイート歓迎

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