長女をニートにさせたくない!
東京駅で妻を見送ってから会社へ13時半に戻り、昼休みの超過時間をカバーしようと思い、休憩なしで顧客からの依頼を一つひとつ丁寧に対応すると、残業が21時30分になった。
それまでに長女と次男に「弟をよろしくな」とメールしたので大丈夫だろうと踏んでいたが少し気になる。
23時半に帰宅すると、次男が自分でたたんだ洗濯物を前に腕を組んでテレビを見ている。
「会社員の飯の種のニュースを見せてくれないか?」と頼んでもどこ吹く風でバカ笑いをしていてこちらは気分を壊す。
案の定、三男はご飯を食べないで睡眠中だ。
長女は3月に短大を卒業して、4月から大阪本社の会社へ就職が内定している。
12月に「就職したい」と言ってきたが折からの不況で就職先などないなか、知り合いの経営コンサルタント仲川雅巳氏に紹介してもらったのだ。
長女と就職の話をしようと思っているが、「おとうさん、先に風呂へ入って」と言うので、パジャマを持って浴室へ向かう。
風呂から出ると、次男を入浴させ、長女と対峙する。
「社長から電話があって、『景気が悪化しているから東京の出店を控える。きみには大阪か京都へ来てほしい』と言われた」
「どうしたい?」
「東京なら家から通えるし、何かあってもすぐに帰れるけど、近畿ならなかなか戻れない。その間、おかあさんと別れちゃうかもしれないので断る」
「姉が後ろ向きになって、弟たちが『大学を休学する』『高校へ行くのをやめる』と言い出したらどうする? 姉なんだからしっかりしてくれ。それから学校時代は楽しいだけの友だちだから一生付き合う人間は限られるが、入社式をしてくれる会社の同期の桜とは一緒に研修で考え語らい汗を流し涙したりするので一生の仲間になれる。もし会社を離れることになっても相談しあえるので、ぜひ行くべきと思う。おかあさんも喜んで送り出してくれるだろう。万が一のことがあっても、大阪・京都であれば3、4時間程度で戻ってこられるから」
「弟たちは男だから就職のために学校へ行かなければならない。わたしは女だから……」
「こういうときだけ『わたしは女』がでるんだな」
社長は本当に不況だから東京への出店を諦めたのか、長女があまり熱心でないから断り文句として言っているのか測りかねる。
「おとうさんはおかあさんを誘導するので言わないでね。あした一緒に食べに行こうか?」
「わかった、わかった」
そのときわたしは「うちには4人の子どもがいる。まずは第一子の長女をニートにさせないで就職させよう!」という思いが強かった。
ところが数日後、郷里の妹から「長女を入社辞退させて、母親の看病に専念させるべき」と、これまでのプロセスとわが家の経済事情をまったく無視した内容のメールがきた。
「だれもおれの理解者はいない!」、わたしは背後から矢が飛んできたように感じて気持ちが沈んだ。