79.妻の最後かもしれない帰省

  1. 朝飯前の朝飯

妻の最後かもしれない帰省

 きょうは妻が長男と一緒に帰省する日だ。

 一緒に東京駅まででかけてやりたいところだが、月曜の朝は会社の朝礼や部門長会議で顔をそろえておかなければいけないので断念した。

 会社へ着くと、先週末の1日半不在にしていてメールが溜まっている。

 1時間弱パソコンと向き合い、朝礼や部門長会議に臨む。

 会議後、岩野清志専務(当時)に先週末の報告をするとこう言われる。

「医者(の多く)は患者の前でデリカシーがない。もっと言動に慎重であるべきだ。フジテレビ『風のガーデン』を見るといい」

 死期を悟っている父親(緒形拳)がガンになり、息子の医師(中井貴一)がそれまでのいきさつを超えて、最後は手を携えるという物語らしい。

 12時20分に会社を出て、東京駅へ向かう。

 妻も長男も新幹線の改札口へいない。

 電話をして、「ここへいる」という八重洲中央改札口へ行ってみる。

 妻がひとりで立っていて、「長男はトイレに行っている」とのこと。

 近くには「岡山大学教育学部3年生で1か月ほど短期語学留学で渡米する」という妻の姪たち3人の顔がある。

 義姪には「偶然に会ったの? 成果をあげてきてね!」、戻ってきた長男には「病気のおかあさんをひとり立たせてトイレへ行くのは考えものだ」、妻には「おいしい弁当を買ってくるから新幹線ホームで待っていているように」と告げて、大丸東京店地下食品街へ急ぐ。

 大丸はきれいに改装されているが、八重洲南口から少し遠くなった気がする。

 妻が「先日、横浜のホテルで食べた弁当が冷えていた」と言うので、きょうは暖かい弁当を探すが見あたらなくて、体にいい玄米ご飯もない。

 仕方なく注文時にご飯をよそってくれるおこわ弁当にした。

 16番ホームの8号車前に妻と長男が立っている。

 妻が「グリーン車だね!」と言うので「当たり前じゃないか!」と返す。

 のぞみのデッキを妻と長男がまたぐと、グリーン車の前に立っているのはわたしだけになる。

 発車を知らせるベルが鳴り車輌が動き出すと手を振る。

 そして、新幹線が見えなくなるまで「妻が元気になりますように。免疫細胞療法が成功しますように」と心の中で祈った。

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