72.「1%の『生』の可能性も厳しい!」

  1. 朝飯前の朝飯

「1%の『生』の可能性も厳しい!」

 元主治医の田川一真医師の「諦めないことが大事」ということばに、「隣でコホンコホンと咳している妻を助けるんだ!」と勇気を鼓舞された。

 気合いを入れて、現主治医の克本晋一医師へ「セカンドオピニオン」や「免疫細胞療法」等についてメールでお伺いをたてた。


「会社の上司からセカンドオピニオンを立てたらどうかと言われ、妻が信頼している元主治医の田川一真先生にお願いしました。テレビ朝日『がん治療最前線』を見て、免疫細胞療法のことを知り、これに賭けてみたいと思いました。妻も同感です。田川先生も『やってみる価値はあるでしょう』と言ってくださいました。1%でも『生』の可能性を模索するために①千葉大病院で面倒を見てもらいながら『免疫細胞療法』を千葉大学と提携しておられる病院を紹介していただく、②その後、千葉大学でダブフェロンを実施していただく――の二点をお願いします。すべてを試してもなす術がなくなれば緩和ケアへ移動します。まったく素人の浅知恵ですので、無理なことは無理とおっしゃってください。明後日16時30分にうかがいます」


 早速、克本医師から返信を頂戴した。

「抗ガン剤治療をしないという意見は、不快な症状がないうちに、やりたいことをやっておき、入院で時間を失い体力の消耗を避ける考え方です。一方、抗ガン剤治療を行なうという意見は、延命効果の期待で、現時点で治癒を目指そうという考えではないと思います。1%の『生』の可能性も正直厳しく、わたし自身は残り2か月と見ています。(中略)抗ガン剤はダカルバジン単剤、あるいはそれに二+一剤を加えたダブフェロンが候補になると思います。ピシバニールは、肺に水がたまった場合にそれを抑えるために使います。テレビ朝日での免疫療法の話は瀬田クリニックですね。効果がはっきりとしません。あくまで実験的な治療であるのと、これらの病院では、奥様を最後まで見ることはできません。もしトライされる場合には、きちんと最後まで見てくれる病院を確保し、その病院といい関係を保っておくことが重要です。また、実験的な治療は大学では一定の手続きをへないと実施できません。いずれにしても、奥様の残された時間は有限で、かつ決して長いとは思えません。今後おきることは、肺に水がたまり、少しずつ呼吸が苦しくなる、痛みが出てくる、大出血により容態が急変する、脳転移により意識障害になる等が予想されます。セカンドオピニオンについては、まともな治療をしている病院であれば、おそらく同じ意見(緩和医療+/-抗ガン剤)になるかと思います。セカンドオピニオンは本来ふたつの並立する選択肢がある条件でもうひとつの治療法を検討する場合に最も有効だと思います。緩和医療も、担当医との相性は間違いなくあります。ご本人が元気なうちにぜひ見学に行かれ、信頼できる緩和のドクターに出会っておくことが重要です。わたし自身は、奥様がなるべく苦痛のない状態でできるだけ長く、ご家族との時間を大切に過ごされることを第一に考えられたらいいのではないかと思います。ガンと闘う場合、柳美里著『命』『魂』(いずれも小学館)を読まれることを強くお勧めします」

「残り2か月なんて信じるもんか?」、わたしは免疫細胞療法に希望を託し、取り急ぎ克本医師へ返信した。

「克本先生はじめ千葉大の先生方には当初より信頼申し上げております。ただ、自分の妻が死を迎えるなんてどうしても考えられません。藁をもすがる思いで免疫細胞療法を試させていただけないでしょうか? テレビではダメージがないと言っていました。もちろん保険診療でないことも承知しています。その後、千葉大病院で抗ガン剤治療や緩和医療を実施していただくのが当方の希望です。口の中のできものは克本先生のご指示でオペが早まるようでしたらご調整ください。柳美里さんの本を読んでみます」

 再び克本医師から返事をいただいた。

「免疫細胞療法についてこちらとしては、ここがいいとお勧めはできません。奥様の場合、必ずしもセカンドオピニオンが必要とは思いませんが、免疫療法を含めた選択肢についてのご希望があれば信州大学は選択肢になります。ここでは進行期悪性黒色腫(メラノーマ)に対する樹状細胞免疫療法という臨床試験が行われていますが、『切除可能な転移病巣を有する進行期メラノーマの患者さんが対象』と記載されており、奥様の場合は切除不能で対象外と思います」

 数時間後、また克本医師からメールを頂戴した。

「奥様の体調に明らかなお変わりはないでしょうか? メールのやりとりで、やはりご主人(ご家族)のお考えが中心となって話が進んでいく印象を持ちました。やりとりを奥様がお読みになっているのかわからないのですが、ご本人のお気持ちがとても大切だと思います。多くの患者様にとって、少しでも多くの時間を苦痛なく、ご自宅でご家族と過ごされることを望まれることが多く、在宅でのケアの体制を整えておくのは大切なことだと思います。例えば、療養のためのベッドを準備しておけば、肺に水がたまってきたときに身体を起こすのを容易に行なえたりします。そういった準備についても、次回お話ししたいと思います。ご紹介した柳美里の本に出てくる闘病記録は緩和医療的なことを全く拒否し、ガンと積極的に闘った場合の例になるかと思います。その場合でも、冷静な状況判断は必要だとわたしは思います」

 しょうじき克本医師の非の打ちどころのない文章に気圧されたが、わたしには妻を守る使命がある。

「本日、家族会議を開きました。妻は先日のテレビを見てわたし以上に希望を抱いています。本人が思い描くプライオリティーは、①免疫細胞療法、②抗ガン剤治療――だそうです。そのことを妻は次回お話しすると言っていますので耳を傾けてやってください」と書いてエンターを押した。

 克本医師の「『生』の可能性は厳しい。残り2か月」というメールをそのまま妻に見せるのは可哀想と思った。

   わたしが「残り2か月」の部分を除いて見せたが、妻はため息をついた。

   それらとは関係なく、妻の有限の時間は病いとともに刻々と進行しているのだった。

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