20.「東京だよおっかさん」

  1. 朝飯前の朝飯

「東京だよおっかさん」

 K誌9月号下版後の校正締日だ。すでにゲラを入手し校正を終えている。

 家での早い朝ごはん後、弟に「部下へ電話で伝えるより直接話したほうが正確、上司に妻の経過も報告したい」と相談すると「(三男の)面倒を見るよ」と言ってくれたので、車で6時30分出発、市ヶ谷へ8時30分着。


 弟には「ここ(東郷平八郎記念公園)で次男を遊ばせてほしい」と頼んで10時に待ち合わせる。

 わたしは会社で加藤佳寿夫専務(当時)へ報告。朝礼後、課内ミーティング、ゲラ校正の指示などを行ない、10時40分会社を退出。


 東郷公園に着くと、弟の所在が不明なので携帯電話をかける。場所を聞いて赴くと、次男が裸でコーラを飲みながら暴れているので制止する。

 弟に「東京観光をして帰るか?」と尋ねると、「妻が初上京だけど、そのまま帰るんでええよ」の返事。

 わたしは「『東京だよおっかさん』だな。では首都を少しだけ見て、絶対に迷わない場所を教えるから、そこでわれわれを降ろしてくれたらいい」と伝えて、「ここが国会議事堂。こっちが首相官邸」とガイドすると、弟が「龍ちゃん(橋本龍太郎氏)のいるところだね」と言う。

「ここがテレビ朝日」と紹介すると、今度は「斎藤陽子アナだね」と。

 やがて渋谷駅南口が近づいてきたので、「ここで降ろしてくれ、あとは一本道だから。少し行ったところで池尻インターがある。そこで首都高速へ乗るといい」と指示して車を降りる。

   わたしは次男を肩車して車が見えなくなるまで手を振る。

 次男が切符を「ぼくが買う、ぼくが買う」と言うので、千葉駅までの680円のボタンを押させる。今度は自動改札機に「ぼくが入れる」と言うので任せる。

 千葉駅からはバスで千葉大病院へ向かう。

 病院では「午前中の予定だったRI(核医学)検査が午後にずれこみ、地下1階に向かったばかり」と言われ、1時間以上待たされる。

   15時になっても帰ってこないので、現地で尋ねると「もう終わった」とのこと。

 エレベーター前で板東真子医師と会話する。

「妻はどちらでしょうか?」

「時間が変更になったので、これからRIじゃないでしょうか?」

「いま終わったばかりだと聞きましたが」

「では、終わったんでしょう。わたしはいま外来で仕事をしていますから」

 わたしと次男が9階の病室へ戻ると、妻は手洗いにいる。「RIの影響でシャワーがこれから」という。

 20分後に帰ってきたとき妻に板東医師とのやりとりを話すと言い合いになる。

「なんで話をしたの?」

「エレベーターで一緒になってなにも話さないというのは変じゃないか?」

「会釈ぐらいでいいじゃない?」

 あの抗ガン剤治療での点滴の一件が尾を引いているようだ。わたしは風邪でダウン寸前で、早々に引き揚げる。その夜はジャスコ(現・イオン)で買った巻き寿司と刺身、それから豆腐でみそ汁をつくる。

 夜、妻から電話がかかってきて「風邪に刺身はよくないよ」と忠告される。

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