99.「まずは隣のひとに声をかけてみよう」

  1. 朝飯前の朝飯

「まずは隣のひとに声をかけてみよう」

 9時ホテル出発、9時40分永野下宿に寄り、10時奥星余市高校の受付へ。

 まだ雪は残っているが、例年になく早い春を迎えたという北海道。

「ただいまよりキリスト教の礼拝方式による奥星学園余市高等学校入学・編入式を執り行います」

 牧師でもある汐見耕次教諭が宣言し、讃美歌斉唱、聖書が読み上げられる。

 幅内和生校長(当時)が次のように挨拶。

「78名の若人が全国から集まってくれました。多くの人は不安いっぱいで、こんな北海道の片田舎にきたくなかったと思うひともいるでしょう。わたしたち教職員は、それが痛いほどわかる。しかしあえて『おめでとう!』と言いたい。皆さんが卒業するとき必ず『よかった!』と答えることを確信している。細かい規則はないが、他人に迷惑をかけることは断じて許さない。他のひとの立場にたって考える。クラスや下宿で苦手なひとがいるかもしれない。しかし、人間はひとりでは生きていけない、そのことをわかって仲良くすることがみんなの成長になる。まずは隣のひとに話しかけてほしい。声をかけることができなくても大丈夫。安心していい。下宿に先輩がいなかったら、生徒会を頼ってほしい。彼らはいつでも相談に乗ってくれる。保護者の方へ。本校の教師一人ひとりは普通で特別な力があるわけではないが、教師集団になると、どこにも引けをとらない。キリスト教の精神を教育の土台に、生徒一人ひとりが学園の中で生き、保護者の皆さんとのつながりを求めてくると思います」

 麻田真理生徒会会長は次のように述べた。

「みなさん、自分を変えたい、成長したい、さまざまな思いを抱いて入学されたことでしょう。わたしは前の学校を自主退学して、2年前の入学式の日も人見知りなので『行きたくない!』と言って家で暴れました。しかし、ここの席へ座って、なにかが変わるだろうと思いました。実際、クラスでいろんなひととつくり上げる楽しさや、真剣に怒ったり自分のことのように一緒になって考えてくれる先輩や友人、先生たちといろんなことを学びました。いまの隣や周りは知らないひとばかりですが、2年間できっと大切な存在になることでしょう。これからたくさんのできごとに遭遇し、ときに失敗するかもしれませんが、失敗を恐れずチャレンジしてほしいです。この学校はきっかけやチャンスが豊富にあります。この経験が人間を大きくしてくれます。強く優しい人間になってください。きょうから」

 ガイダンス終了後、自宅へ電話すると、妻がでた。

「高校の入学式が無事に終了したよ」

「次男はどうだった?」

「ちゃんと起きて登校するかどうか心配なんで下宿へ寄ってみたらごはんを食べていて安心した。そっちはどう?」

「義妹さんのおかげで三男の入学式に出席できた。少しふらっとしたけど大丈夫だったよ」

「そうかそれはよかった」

 わたしは次男に「先生と大家さんの言うことをちゃんと聞けよ。無茶はするな」と言って余市をあとにした。

 次男は依然、「ああ」とか言わない。

 これでは「海猫屋」のマスターが言うように子どもをほめてやることは、なかなかできない。

(つづく)※リブログ、リツイート歓迎

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