「アメリカでいっぱい思いでが残せる!」
三男の誕生日だが、サプライズが必要だ。
といっても本人がなにをプレゼントされたら喜ぶのかわからない。
とりあえず、朝イチで「誕生日おめでとう!」と声をかけると、三男はにこっとうなづく。
朝食後、三男には「11時半にでよう」と声をかけたが、パソコンへ向かって調べものをしたがなかなか終わらない。
東京の転校先候補の状況把握だ。
まず中学校を決めて、つぎに住むところをと考えた。
わたしは12時にようやく腰を上げ、三男に「悪いな、遅れて」と声をかけ車のハンドルをにぎる。
大網駅に着いて、ガード下の歩道を歩いていると、千葉リトルリーグの堀田コーチ夫人から「世界大会、がんばって!」と声をかけられる。
千葉駅の地下街のうどん屋で食事をして、駅構内のタクシー乗り場でタクシーに乗車し、「県庁へ行ってください」と告げる。
待ち合わせ場所の新館正面のロビーへ守衛に聞いてたどり着く。
県庁体育課の職員に手招きされ、エレベーターホールへ移動するとアナウンスがある。
「面談室に行く途中、執務室を通るのでお静かにお願いします」
6階の応接室へ着くとメインの廊下がふさがっているのか狭い。
「おかあさん方と選手のみなさんは適当に椅子に腰かけ待っていてください。知事が来る直前に声かけしますから」
われわれが入室後、すぐに森田健作知事が「おっす、おめでとう!」と言って顔を見せ、司会が口火を切る。
「千葉リトルリーグがザバスカップ・リトルリーグ日本選手権大会を制し、8月21日から米国ペンシルベニア州ウイリアムズポートで行われる世界選手権大会に出場することになりました」
徳川洋文監督が「選手14名、監督1名、コーチ2名、通訳1名で戦ってまいります。選手はキャプテンの井村から自己紹介いたします」と述べたのち、選手が順に名前と抱負を述べた。
森田知事はつぎのように挨拶する。
「よし、がんばれ。世界だよ、すごいおめでとう。これから長いあいだ生きるだろうが、ジャパンを胸に世界と戦える経験はそうないものだよ。そのなかできみたちは行ける。監督、コーチ、おとうさん、おかあさんに感謝しなさい。ぼくは小学校から剣道をやっている。指導者の先生から『勝って驕ることなかれ。負けて卑屈になるなかれ』と言われた。まだまだ練習してもっと強くなって、日本人、千葉人の誇りを持とう!」
わたしは三男を若田母に託し、タクシーへ乗り、会社に向かう。
15時半、上司の岩野清志専務に挨拶する。
「遅くなりました」
「こんなに遅い時間だったら休めよ。急用でもあるのか?」
確かにあと2時間で終業時間だが、子育てとの両立で仕事がたまるので仕方ない。
少しでもこなしてと思っていたのに、でばなをくじかれた感じだ。
平岡寛和次長から次のように言われる。
「きょうはバンバン電話がかかってきましたよ。不在にしたほうが注文が入っていいんじゃないでしょうか? 漏れがないようにしないといけませんね」
20時発の特急わかしおに乗るつもりで19時30分に退出。
運よく地下鉄有楽町線新木場行きもすぐにくる。
有楽町駅に着くと、ヨドバシカメラ有楽町店の明かりが煌々とついている。
三男の誕生日プレゼントを思いつき入店し店員と会話する。
「どのデジタルカメラが使い勝手がよいですか?」
「これでしょう!」
わたしは商品を受け取ると、京葉線東京駅に向けて走る。
間に合うか間に合わないか微妙なところでわかしおの扉が閉まり、20時15分発の快速一ノ宮行きに乗車し、蘇我駅で内房線に乗り換え、五井駅で若田家に電話をかけタクシーに乗る。
「これからタクシーで向かうので、三男に帰る準備をさせてくれませんか?」
五井駅から5~6分で着く。
若田家のひとたちと言葉を交わし、三男を連れて再びタクシーに乗り、電車の道々話をする。
「若田さん家の食事は誕生日バージョンか?」
「普段と変わりない」
特別対応でなく安堵する。
三男に誕生日祝いのデジタルカメラを渡すと大喜びした。
「おとうさん、ありがとう。アメリカでいっぱい写真を撮って、いっぱい思いでが残せる!」