ウルトラマンのコップに涙!
朝6時、携帯画面に「Happy birthday to Mother!」と歌っている長男が出る。
妻の誕生日だ。
前夜0時30分まで折り鶴を折り、風呂へ入って、0時50分に寝たので眠い。
次男が部屋の扉をバタンと閉めたので目を覚ます。
わたしは次男に「また夜中に起きていたのか? 4月から本当に高校へ行けるのか? 眠くなくても夜は寝ろよ!」と諭した。
にもかかわらず朝、冷蔵庫をのぞくと牛肉がパックごとなくなっている。
次男が夜中に起きてゴソゴソしているのだろう。
先日、奥星学園後志高校へ入学金・授業料を振り込んだし、中学時代や前の高校のように「眠い」とかで学校へ行かないのでは話にならない。
なんとかして夜と昼を逆転させる必要がある。
会社を早退して千葉大病院で稲澤万里医師、小方渉医師から妻の今後の説明を受けた。
「抗がん剤でげいげい吐く人間はいませんが、食欲が落ちます。個室にテレビと本があるが寂しいです。相部屋かどうかは本人の意思を尊重します。薬が効いているかどうかは3日を経て判定します。自宅から通院し、外来は27日です」
「外来は承知しました」
「肺以外は元気ですが、胸の右側へ転移を確認しました。骨に転移するとつらいです。一部の細胞が壊死しています。これから出血したり水が溜まるかもしれません。苦しいと血を吐き、出血すると体の具合が一気に悪くなり、意識がなくなるかもしれません。出血で血圧が下がると上げる治療、心臓マッサージを行いますが、可哀想で見ていられません。救急車で搬送されるような状況でも人工呼吸器や生命維持装置など、慌てない段取りをしておく必要があります」
「実際、かなり進行しているのですね」
「進行しています。緩和系の病院は家族が24時間張りつきます。痛い苦しいとなったときモルヒネで急に血圧が下がります。本人がつらい、痛いと言えば大学病院へ搬送し、水をいれます。ぐじゅぐじゅ系の出血があります。病院でなく自宅で死ぬのもありです。家族として長生きしてもらいたいが、苦しませたくない、悲しませたくないので、人工呼吸器を外す。交通事故のように元に戻る場合は管だらけ、寝たきりです。尊厳死も選択肢になります」
克本晋一医師以外の医師からもシビアな話を聴いてしょうじき戸惑ってしまった。
妻の誕生日なので気の利いたプレゼントを渡さなければいけないが時間切れだった。
おしゃれでかわいいパッチワークの買い物バッグを気に入ったが高額で1日考えようと思って翌日買いに行ったらすでに売れていた。
仕方なくウルトラマンのコップと誕生日ケーキを持参し、「誕生日おめでとう」と言って渡したらかわいくないからうれしくなかったのだろう、妻はなにも言わないで涙を流した。
わたしは「あのときやはりあの買い物バッグを買うべきだった」とじだんだを踏んだ。
(つづく)※リブログ、リツイート歓迎