「高校を卒業してぇ!」
次男の奥星学園余市高校入学試験の面接者、入試・家庭科担当の玉浦淳子教諭はとても温和でやさしく語りかけてくれた。
「山ノ堀くん、きみ、根性ありそうだねー」
次男は口を閉ざしたままだ。
「受験しに来てくれてありがとうね。おとうさんおかあさんも、遠いのにおつかれさまです」
「いえ、このような機会を設けてくださりありがとうございます」
「山ノ堀くん、きみ中1のときの成績はずいぶんよかったんだね」
「ああ」
「中2からあまり学校へ行かなくなったの?」
「ああ」
「本校を志望した動機はなに?」
「(高校を)卒業してぇ!」
「そう。がんばろうね!」
「おお」
「たぶん、わたし新年度、1年生の担任になる予定なのさ。よろしくね」
「ああ」
今度はわたしと玉浦教諭の会話になる。
「先生、筆記試験とかはないのですか?」
「筆記試験と面接試験のいずれかで合否判定します。今回は面接試験でした」
「息子はどうなんでしょうか?」
「合格と思ってくださっていいと思います」
「『ああ』とか『おお』で受かるのでしょうか?」
「『卒業したい』という意思が伝わってきたので大丈夫です」
「そうですか? ありがとうございます」
「ところで、4月からの下宿先をいまから見て決めておかれたほうがいいと思います」
玉浦教諭は再び次男のほうを向いて尋ねた。
「山ノ堀くん、どこがいい? 学校から近いところと遠くてもバスで送ってくれるところ。下宿代が安いか、高くてもご飯がおいしいか? コンビニが近くにあるほうがいいとか?」
「近くて飯がうまいところ」
「ちゃんと言えたねー! ここなんかどう?」
わたしと妻は深々とお辞儀をして、次男がボロを出さないうちに退出しようと考え、紹介された2軒の下宿先をそれぞれ訪ねた。
2軒目の永野下宿オーナーの永野清美さんに駅前の柿崎商店まで送ってもらい、3人で大盛のウニ丼を頬張りながら次男に尋ねた。
「さっきの玉浦先生、やさしそうだったな?」
「ああ」
「どうだ?」
「ああ」
「さっきから『ああ』ばかりだけど、実際どうなんだ? 行きたいのかどうか、ということを知りたいんだ」
「……」
「下宿はどうだ?」
「あとのほうがいい」
「どうしてだ?」
「楽しそう」
「そうか? 永野下宿のほうが大家さんのひとあたりがよくて食事もおいしいそうだが、勉強に身が入らないのではないか?」
そう言いながら失敗したと気づく。
プレーヤーである本人に「ここで続けたい」という環境をつくることが大事で、よほどおかしくない限りは親がオーケーを出すべきだと思ったからだ。
「わかった。永野下宿にしよう」
妻にも尋ねる。
「どう?」
「わたしはどちらでも。本人の意思が大事だからね」
次男の高校と下宿が決まり、妻とわたしはとりあえず肩から重い荷物を降ろした感じで安堵した。