62.「はじめての魚つり」

  1. 朝飯前の朝飯

「はじめての魚つり」

 毎日が地獄の日々だ。

 わたしは小学校6年生の三男を連鎖させてはいけないと危機感を募らせていた。

 野球(リトルリーグ)の練習が早く終わったとき、小学6年生の三男が「つりがしたい」と言ったので、つり竿を買って九十九里浜の片貝海岸でつり糸を垂れた。

 妻には「今晩の食卓に大量の魚をつって帰るからな」と連絡したが、結果はアジ1匹に終わった。

 しかもこのアジは稚魚なので海に戻してやった。

 三男が嘆息する。

「あーあ、いっぱい釣れたら宿題の作文に書こうと思ったんだけどな」

「よーしわかった。今週の金曜日、夏休み最後に船つりをしよう」

 わたしは会社に有給休暇を申請し、いすみ市大原漁港のいずみ丸船長に予約を入れた。

 その日は早朝3時すぎに家を出て、トヨタのノアを走らせた。

 最初、すごい豪雨だったが、つり船が出航するころ雨がやんだ。

 波が高く、わたしは何度もゲーゲーいいながら半分倒れていたが、三男は船酔いしないで船長の指導よろしくどんどんつり上げた。

 成果は、アジ12匹、イナダ4匹、カツオ2匹、アジ12匹、タイ2匹で大漁だ。

 家に持ち帰ると、玄関で妻が「いっぱいとれたねー。自分で調理してくださいね」というので慣れない手つきで包丁を持ち、うろこと内臓をとり、刺身とフライにした。

 料理して妻と三男に勧めると、ふたりはそれぞれ感嘆の声をあげた。

「新鮮でとてもおいしいね!」

「ぼくがつった魚、うまい!」

 三男が書いた「はじめての魚つり」は学年代表となり、山武郡市小中学生作文コンクールの文集に掲載された。

 ただし、「いすみ市のいずみ丸」は「いすみ市のいすみ丸」に間違って印刷となっていた。

 静岡市内に住む大学生の長男が帰省したさい文集を見てわたしに話しかけてきた。

「おとうさん、今度はおれも連れてって!」

「よおし、わかった。一緒に行こう!」

 次男にも声をかけた。

 魚つりは、わが家にとって久々に明るい話題だった。

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