44.明朗快活になった三男

  1. 朝飯前の朝飯

明朗快活になった三男

 妻は短期大学幼児教育科卒で保育士の免状を持っていて、子どもとの向き合いかたがとても上手だ。

 しかし、退院してから最初のうち、三男だけはそれほどかわいがろうとしなかった。

 出産後、三男と離ればなれになり母乳を与えることがかなわなかったためか、初めての帝王切開で上の子たちと授乳のミルクの量が違うことによる戸惑いか、それとも体調が芳しくなく世話を焼くことができなかったからだろうか?

 逆にわたしは第四子の三男にして初めて子育てに正面から向き合った感がある。

 2か月早産で未熟児として千葉大学付属病院で産まれ、千葉市立海浜病院へ救急搬送され、自力呼吸ができないため酸素吸入、鼻や脚に点滴の管だらけの三男だった。

   だが、徐々に病気とは無縁の元気な子どもに成長した。

 顔がわからない多くのおかあさんから善意のもらい乳(初乳)がよかったのかもしれない。

 2歳のとき母が勤める老人ホームを慰問し、司会進行、ピアノ演奏をつとめた長女とともに皿まわしで共演し拍手喝采を浴びて以降、自然とウケを狙いにいくような性格になった。

 3歳になり兄たちに混じって一緒に遊ぶようになると、骨折や脱臼、大小のケガを繰り返した。

 小心のわたしは、帰宅後に三男のギブスや包帯を見ると、きまって妻へ問いただした。

「(ビックリした顔で)どうしたんだよ?」

「男の子はやんちゃぐらいがちょうどいい。ケガをして痛い思いをしたら『危ない。これから気をつけよう』と思うものよ。それをやめたらあなたのように心配性のおとなになる。それにしてもあなたは三男のケガのときだけ心配するね」

「『心配性のおとな』は余分だ。三男のケガは特に多くないか?」

「そうだね。それだけ元気ということでいいじゃない」

 ある日、医師から「ギブスや包帯をぬらさないように!」と言明されていたにもかかわらず、三男が「ぬれた~」と言って珍しく泣いて帰ってきたことがあった。

 問いつめると「近所の中1の子にホースで水を掛けられた」と言う。

 わたしが「許さん!」と言って立ち上がると、妻は「子どものケンカに親が出るのはおかしいからやめて!」と静止したが、いじめの現場にいた次男を連れて中1の子の家へ乗り込んだ。

「おいきみ、どういう了見でうちの子にホースで水をかけたんだ?」

「(三男が)悪いことをしました」

「3歳の子が悪いことをしたってどんなことか?」

「水鉄砲の水がぼくにかかりました」

「あのなー、きみは中1で同級生から意地悪されたら痛いし悔しいだろう。でも、3歳児が水鉄砲で水をかけたからといってすぐ乾くし、大目にみてやろうと思わないか?」

「乾きます。大目にみようと思います」

「わかってくれたらありがたい。これからはいじめないで仲良くしてやってほしい」

「わかりました」

 その後、この中1の子(当時)は、次男に「おまえのおとうさん、おっかないからもうしない」と言ったとおり、それから三男をいじめることはなくなった。

 近所のおじさんが本気で叱ったのが効いたのだろう。

 三男は明朗で快活な子に成長し、妻とはいつも冗談を言いあう仲になった。

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