37.妻の背中の消毒

  1. 朝飯前の朝飯

妻の背中の消毒

 衣替えの10月だ。

   きのう夏服で出勤して少し寒く、きょうはさらに合い服が正解と思えるくらい涼しい。


 高森貞夫社長(当時)から社員に決算賞与が支給されることになっているが、わたしは群馬県前橋市への取材があることを岩野清志取締役(当時)に伝えて外出。


 18時過ぎに会社へ電話し、豊岡幸弘主任(当時)を呼ぶ。

「名古屋のイベント取材を代わってやろうか?」

「迷っています」

「下版までに原稿がすべて完了するのであればいいが……」

「わかりました、お願いします」

 翌朝、赤山雅夫主任(当時)にも電話する。

「明後日の千葉のイベント取材はどう?」

「やります!」

 彼は、前々から「千葉と九州にはぜひ行きたい」と言っているので任せることにした。

 名古屋のイベントでは、午後からの式典、講演会、ペギー葉山ショー等のレセプションを取材。

 イベント終了後、加藤佳寿夫専務(当時)に名古屋駅前のホテルのバーへ誘われ馳走になる。

「山ノ堀くん、きみはこんな高級なバーやクラブにはきたことないだろう」

「ありません」

「ウイスキーは1杯5千円だからビールでいいな?」

「(「通風なんでウイスキーがいいです」とは言えなくて)そんなに高いのならビールをいただきます」

「酒を飲むんじゃなく雰囲気を楽しんだらいい!」

「承知しました」

 加藤専務は、国産ウイスキーの水割りの氷が溶けていてママが「新しいのをつくりますね」と言っても「大丈夫ですよ」と応じない。

 それを見て、わたしはビールをコップ2杯ちびりちびり飲む。

 加藤専務からマネジメントや営業についてご高説をたまわる。

 われわれが帰ったあと、「さっきの客、ケチねー。しかも仕事の話ばかり」と言われたかもしれない。

 その夜は駅前の安ホテルへ投宿。子どもが4人もいるので出張旅費を浮かせて生活費に充てるためだ。医療費もかさんでいる。

 翌朝8時台ののぞみ指定券を持っているが、原稿の執筆があり7時台に乗って会社へ9時30分着。原稿執筆に燃えていたが、この日はゲラ校正で暮れる。

 夕方、帰るかどうか思案するが、いまなら家に義父母がいてくれるので、ここで上司の意地を見せなければと肚を固め、先日の越後湯沢のイベント取材の原稿を完成させ、近くのカプセルホテルへ泊まる。

 カプセルホテルで寝冷えしたのか、それとも食べ物にあたったのか、出勤すると下痢気味だ。原稿を起こす気力が減退、校正しようとしても続かない。

 17時30分に会社を退出。ジャスコ(現・イオン)で買い物をして家へ帰る。長女・長男・次男は寝ていて、妻に声をかけられる。

「買い物が好きねえ!」

「誰かさんのために(ガンに効くと言われる)茸、キノコ類を買ったんだよ」

「ジャスコへ行くなら、余分なものを買わずに牛乳を買ってきてほしかった」

「了解! 次回な」

 妻が入浴後、わたしは久々に背中の消毒をしてやる。

   背中は直径30センチの円形があいかわらず陥没した状態だが、わずかに隆起していて、中央部の皮膚もなんとかくっついている。ひと安心しながら赤チンとクリームを塗り、ガーゼを貼ってやる。

 それにしても米粒大の良性のほくろの切開手術がこうなるなんて、妻が可哀想でかわいそうで仕方がない。

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