「あの新築、きのう500万円値下げしました」
三男をつれて千葉東金道路に乗り、首都高速を走る。
「どんなところへ住みたい?」
「マンションはイヤだ! いまのような家がいい」
「戸建てだな?」
インターネットで「東京メトロ南北線に強い」と書かれていた文京区白山のケイコーポレーションを訪ねる。
長身で色白、鼻が大きく誠実そうな内藤賢一氏が対応してくれる。
「この三男の子育てのため、会社がある市ヶ谷駅まで30分圏内の、できたら戸建ての中古物件を考えています」
「南北線沿線の戸建てをご希望ですか? 北区ならこの程度、文京区ならさらに高くなります」
「文京区は予算的にムリです。北区にしぼってください」
「わかりました。(コピーを指さしながら)それではここをはじめ4軒ほどご案内しましょう」
「お願いします」
内藤氏が北区内の新築や中古物件等を見せてくれたあと、わたしは三男に尋ねた。
「どこがいい?」
「最初の新築だけっしょ」
「内藤さん、あの新築って高いでしょう?」
「施工と同時に3か月前から売り出しているのですがなかなか買い手がなくて。じつはきのう500万円値下げしたばかりなんです。超お買い得です」
「えっ、きのう値下げしたばかりですか? 買い手がつかない理由はなんですか?」
「北向きで3LDKと狭いからではないでしょうか?」
「太陽は?」
「朝から昼まで、はいってきます」
「東京に住むので、このさい贅沢は言えません。わたしは9年後に定年ですが、住宅ローンが通りますかね? それと息子の転校もあって今月19日~23日の連休中に引っ越ししたいのですが……」
「ずいぶんタイトですね。御社のメインバンクは?」
「三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)です」
「みっ、三菱さんは審査の回答が1週間ほどかかるので難しいかもしれません。みずほ銀行さんと三井住友銀行さんであれば2、3日で審査結果がでます」
「では、その両行に当たってみてください」
「息子を転校難民にさせたくない!」、わたしは祈るような気持ちで銀行の審査を待つことにした。