「優勝はおくさんが風を吹かせてくれたから?」
千葉リトルリーグの東関東夏季大会決勝戦の結果も気になっていたら、徳川監督夫人からわたしの携帯へ電話がある。
「山ノ堀さん、勝ったよ! 優勝よ! 息子も活躍したわ!」
「えっ、ほんとですか? 次は全国大会ですね!」
「そうよ。ついに4年ぶりの全国大会よ!」
「おめでとうございます。優勝にふさわしくないかもしれませんが、妻が朝9時半に逝去しました」
「えっ、やっぱりそう? 0対1で劣勢だったの。9時半ごろ息子(三男)がデッドボールを機に同点のホームを踏んでから流れが変わった。大倉がツーランホームランを放ったの。そのとき『アゲンストの風が横風に変わった。旗が急に横にふれたのを確認した。逆風なら戻されて入っていなかったかもしれない』と、あとで監督が言ったの! おくさんが風を吹かせてくれたのかもしれないね」
「えっ、そうだったのですか?」
「息子にはどうする? こちらで言うか? それともあなたが言う?」
「わたしが直接つたえますから電話をかわってもらえませんか?」
「わかった」
三男にかわる。
「おとうさん?」
「優勝おめでとう!」
「ありがとう!」
「じつはなー、おかあさん、けさ亡くなったんだ」
「えっ」
「亡くなってから、試合の応援に行ったのかな? 監督夫人から話を聞いたよ。突然、横風に変わったらしいな」
電話の向こうでしくしくと泣き声が聞こえる。
「これから焼き肉屋で祝勝会があるらしいな。おとうさんは行けないが、そこへ連れていってもらうか? それとも家に帰ってくるか? 帰るなら一関弘コーチが送ってくださるそうだ」
「帰りたい!」
「了解した。一関コーチにお礼を言うんだぞ」
「わかった」
東関東連盟夏季大会決勝リーグ第3試合(決勝)は新チーム結成以来、1勝2敗と負け越している銚子リトルリーグが相手だった。
好投手の前田くんにいつも苦戦を強いられてきたが、この日は若田・井村の両エースが投げ勝った。
三男は0打数0安打1四死球。
監督夫人が言うように、妻は悪性黒色腫の闘病から千葉大病院で永眠すると、天女になって友部グラウンドへ舞いおりて三男のチームを応援したのかもしれない。
彼女の「全国大会で応援したい!」という夢がかなった瞬間だ!
(つづく)※リブログ、リツイート歓迎