277.「息子を捨てた親の顔なんか見たくねー!」

  1. 朝飯前の朝飯

「息子を捨てた親の顔なんか見たくねー!」

 交際中の笹原母から「えっ、長男の同意を得られなかったの? その点、うちの子(M)は大丈夫よ」と言われて西武新宿線中井駅からほど近い学生マンションへふたりで向かった。


 わたしの気持ちは重い。

 なぜなら次男が奥星余市高校時代に飲酒と寝坊による遅刻過多で担任の家田教諭から下宿移動の話があった際、それに同意したわたしに厳しいことばを投げかけたのが次男の1学年先輩の彼、Mくんだからだ。

 マンションの部屋の内外で笹原母と専門学校生のMくんの攻防がつづく。

「ゴンゴンゴン(ノックをする)。いるんでしょ、開けて!」

「うるせー。息子を捨てた親の顔なんか見たくねー!」

「捨ててないでしょ! M、開けて!」

「帰れ! 二度とくるな!」

「お願い。開けて。話をしよう! ゴンゴンゴン」

「話なんかするもんかー!」

 しばらくたって笹原母はマンションの棟全体に聞こえるように大声でさけんだ。

「みなさーん、うちの息子が部屋からでてきませーん。親として餓死しないか心配ですー。助けてくださいー!」

「うるせえんだよ!」

 Mくんが部屋からでてきたので、笹原母はわたしに言った。

「早くはいって」

 わたしは扉に足をかけた。

「Mくん、ちょっといいかな?」

「はいってもいいけど話はしない!」


 さっきよりだいぶ穏やかになっているので笹原母と一緒に入室する。

「なんで開けないのよ!」

「はずかしいからさけぶな!」

 わたしは笹原母に「だまって!」と言いながら、Mくんにまず下宿移動のことを詫びてことばを絞りだした。

「Mくんが許してくれるまで結婚はしない。でも交際はつづけさせてほしい」

「おれはかっこわるいんだよ。奥星余市のPTA同士で!」

「かっこわるい思いをさせて申し訳ない。でも、幸せにするから見守ってくれないか?」

「好きにすればいいじゃないか?」

 Mくんが軟化したので好物の菓子をおいてマンションをあとにした。

 あれだけ張りきっていた笹原母が弱音をはいた。

「もうやめようか、この結婚。わたしはMのことがいちばん大切だから」

 今度は笹原母にああでもないこうでもないと説得することばを用意した。

 わが家には要素がまったくないドラマチックな母子だ。

 ボツイチ子持ちとバツイチ子持ちが結婚することのハードルの高さを実感したのだった。

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