55.積み木くずし

  1. 朝飯前の朝飯

積み木くずし

 次男は晴れて高校生になったが、志望校への進学でなかったため焦点が定まっていない。

 妻は、自分の父親が「母子家庭の家計」を助けるために進学校を中退、職を転々とし苦労を重ねてきたことから、中卒がいかに社会で不利益を被るか身をもって教えられた。


 だから、わが子にはせめて高校卒業の資格を取得させてやりたいと堅固な想いがあった。

 わたしも次男の高校入学に当たって次のように声をかけた。

「附属高校だから約90パーセントが系列大学へ進学できるそうだ。でも、高校は中学校のように義務教育ではないから謹慎や退学がある。いちど退学になったらまず復学できない。心をいれかえ学校の先生が言われることをきちんと守れよ。わかったか?」

「ああ」

 次男は入学初日に生活指導担当の教師から「髪の毛が長い! 襟にあたらないように切りなさい!」と注意された。

 にもかかわらず髪の毛を切らずに2日目、3日目と、始業時間をずらして登校して、生徒指導室へ呼ばれたらしい。

 それでも「髪は切らない!」と言い放ち、翌日から登校はまばらだった。

 5月にはPTAにあたる後援会の総会があり、次男がちゃんと登校していないにもかかわらずいつか戻ってくれるだろうとの期待から参加した。

 そのときの後援会長のことばがとても印象に残った。

「娘はテニス部、わたしは後援会で、互いに3年間がんばりました。その結果、娘は晴れて第1志望の体育学部体育学科へ入学することができました。みなさん、生徒だけでなく親のがんばりも、どの学部学科へ進学できるか影響があるのです」

 この話を聴き、長男は全国付属高校学力統一一斉テストや校内の試験で、全体の上位3分の1ぐらいに位置していたにもかかわらず第7志望の学科となったのは親が後援会へ入っていなかったからかと思わされた。

 もし長男の時代に親が後援会で活躍していたら、看板学科へ合格できたかもしれない。

 いずれにしても周りが真剣なまなざしで耳を傾けているなか、自分の息子がいつ退学するかもしれないとの不安でやるせなかった。

 次男が高校へ登校しなくても県下一高額の授業料を払わなければならない。

 JRとバスの定期代もいちばん割引率が高い6か月で購入しているが、次男の登校を願って途中解約できないでいた。

 新学期前の8月下旬に次男の高校で頭髪検査があり、その前日に妻と次男が話した。

「必ず髪を切りに行くのよ」

「農協でバイトをして午後に散髪へ行く。自分も切ろうと思っている。翌日の13:30に学校行ける」

 次男は約束を守らず午前0時すぎに帰宅し、朝も起きようとしなかった。

「どうして行かないの?」

「散髪代がなかった」

「お金をあげるから散髪に行きなさい」

「うるさい!」

 次男は12:15にようやく起きてきて、ご飯を食べて自分で髪を少し切って、洗面所を髪の毛だらけにした。

 風呂へ入り、13:00に準備ができ、妻が車に乗せて、高校に着いたのが13:40。

 次男の髪はまだ長くて、しかも茶色。

 話を聴く態度も下を向き眠たそうにして、口のきき方も悪い。

 しかも次男は「1年間遊ぶために高校へ行く。勉強はしたくない。留年したら働く」とのたまったそうだ。

 高校の帰りに次男の態度があまりにも生意気で、妻の怒りは沸点に達した。

「車に乗せてきてもらっているくせに何様のつもりなのよ」

「じゃあ一緒にこなくてもええじゃないか!! なんで一緒にくるのか意味不明!」

 妻は次男を車から降ろした。次男は車を蹴った。

 車の中で妻は「次男のバカが!! すぐものにあたる。家の壁、扉も穴だらけ!」といって涙しながら帰宅したらしい。

 わたしはその話を聴いて、次男の携帯電話を一時停止した。

 それから次男は家に帰ってこなくなったが、こっそり2階の窓から侵入し、制服を脱いで着替えて、またでていく生活を繰り返した。

 夏休みの宿題をするつもりもなく、部屋の勉強道具もすべてぐちゃぐちゃに放り投げられている。

 わたしと妻は、映画化・ドラマ化された『積み木くずし ~親と子の200日戦争~』(桐原書店)と同様に解決の糸口が見つからず茫然自失の毎日だった。

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